マザー (2014):映画短評
マザー (2014)ライター3人の平均評価: 3
いわゆる「作家」らしい映画ですね。
主役は自分、自作漫画も引用(ま、演じているのは愛之助だが)。自伝か、と思わせるメタフィクショナルな物語。赤白ストライプのイメージ含め自己演出能力にも長けた漫画家、というパブリック・イメージも利用しつつ、母との確執やコンプレックスも絡んでいささか寺山修司っぽくもある展開にニヤリ。ただしホラーとしては、真行寺君枝を除いてちっともオソロシくはないのが難だが(あのへび少女含め)、SF漫画家としても最上級に位置する論理の人らしい展開がいかにも楳図かずおなのだ。演出的にはいささか単調でぶっきらぼうなところもあるが、決して下手ではなく氏の作品に通底するものが表れているのは流石。「君恋し」の使い方なんてね。
楳図氏ならではの大胆な発想は面白い
楳図かずおの漫画を読んで育った筆者としては非常に心苦しいのだが、良くも悪くも素人監督の映画だと言わざるを得まい。
自身の母親を悪霊に仕立てたフェイクな自伝的ホラーというのは、なるほど楳図氏らしい大胆不敵なアイディア。ダリオ・アルジェントを彷彿とさせる色彩への強いこだわりなどにも、監督の並々ならぬホラー映画愛が伝わってくる。真行寺君枝は実年齢より若く見えるため、老けメイクが若干不自然なようにも感じるが、あの憂いをおびた美貌は確かに楳図ワールドの住人だ。
ただ、カメラワークや編集のぎこちなさは否めず、演出も手探りな印象が残る。とにかく、これが初監督作品。是非とも2作目以降に期待を寄せたい。
楳図かずおが自ら監督したフェイク自伝映画!
さすが、楳図かずお。コミックという視覚表現を追求してきた彼は、やはり視覚表現の一種である映画を初監督するにあたって"コミックを実写にする"とは発想しない。彼は、自分のコミックの"画"それ自体を映画の中に取り込むという大ワザを使う。彼の描く"線"自体がもっとも強い表現であることを、彼は分かっているのだ。物語がフェイクの自伝なのも、自分自身をキャラクター化し、自作に登場させてきた彼らしい。
それにしても楳図かずお自身による実写だ。あのヘビ女が螺旋形に這いずり回る姿はどんな映像なのか。楳図系としかいえない美少女たちは、人間ならどんな顔をしているのか。それを見ないわけにはいかない。