シャトーブリアンからの手紙 (2012):映画短評
シャトーブリアンからの手紙 (2012)ライター2人の平均評価: 4
ナチもその敵も、誰もが敗者であったシビアな風景
ひとりのナチス高官が殺された事件の報復としてヒトラーが指示したのは、フランス人の政治犯150人の処刑。そんな戦時下の過酷な風景を切り取った本作は、確かな歯応えがある。
フランス人の悲劇もさることながら、ナチスの兵たちでさえ報復がやり過ぎと考え、指示を回避すべく奔走する。背景にはドイツとフランスの敵国間を越えた個人レベルの交流があり、前半では収容所のノンビリとした空気も伝わってくる。
個人と個人の関係が国を背負ったことで途端に圧迫される、そんな現実を名匠シュレンドルフは的確に描き切る。そして、そこでは誰もが敗者とならざるをえない。このシビアな現実は、日本も無縁ではないだろう。
ものを言えぬ時代の恐怖は他人事ではないかも。
一人の将校の命を150人の政治・思想犯の命で償う。第二次大戦中、ナチス・ドイツ支配下のフランスで起きた暴挙だが、ヒトラーからの命令がトップダウンで淡々と進むのが非常に恐ろしい。監督は、誰もが明らかに「おかしい」とわかっているのに異を唱えられない薄ら寒い空気感を丹念に描いている。レジスタンスの象徴として有名なギィ・モケだけでなく、死刑リストに名を連ねた人々、非力さに苦悩する副知事や保身に走るナチス将校やその愛人らの心情を交えて多角的に事件を見つめる演出で戦争の理不尽さを伝える熟練の手腕に脱帽。映画で描かれる体制や政治が今の日本とかぶり、ものを言えぬ時代が迫っている恐ろしさを覚えた。