ANNIE/アニー (2014):映画短評
ANNIE/アニー (2014)ライター5人の平均評価: 3
なんでも「現代的」にすればいいってモンじゃない。
W.グラックはかつて「緋文字」の現代的読み換えに成功したが、今回の“古典”処理は無残。大恐慌期の物語をIT社会に落としこもうとしてはいるが、もはや「アニー」ではなく別のモノ(今じゃ富豪のイメージアップどころかペドフィリアと捉えられるよ)。見るべきダンスは何一つなく、音色や和声の妙を削がれ均一なビートとメインメロディのみにやせ細ったオリジナル楽曲は聴くに堪えん(ま、趣味の問題ですが)。むしろ数曲ある新曲のほうがアレンジ面の出来も良く、いっそ『ウィズ』のような翻案ものに作り直せばよかったのに。ただ、歌えない歌にまで挑んで他とは違う空気を発散しまくるC.ディアスは讃えたいところ。ちっとも笑えないが。
ミュージカル映画の名作のすべてを現代版化
ミュージカル映画の世界は日常からは遠くにあって、人は話すのではなく歌い、歩くのではなく踊る。が、本作は、こうした通念の進化を大胆に試みる。名作ミュージカル映画「アニー」(82)と同じ原作を、時代を現代のNYに移して、総てをアップデート。監督・脚本は現代感覚コメディ「小悪魔はなぜモテる?」「ステイ・フレンズ」のウィル・グラックが担当。セットではなくロケで撮影。登場人物の職業も環境も現実にありそうな設定に。歌と踊りよりも、スピーディーなドラマ進行を優先する。こうして現代版化は、隅々まできっちり実現されている。だがこのアップデートが目指したものが何なのか、そこがよく分からなくなったような?
大胆リメイクしすぎたゆえのラジー賞候補
ラジー賞最低リメイク候補に挙がったが、舞台を大恐慌直後からネット社会の現代に変更。キャラ設定も大幅に変え、新曲もアリと、大胆リメイクに挑んだ意欲は大いに買いたい。なにしろ、今回キャメロン・ディアス演じるミス・ハニガンの設定がC+Cミュージック・ファクトリーの元メンである! とはいえ、82年版に比べてしまうと、ミュージカル映画としての醍醐味やスケール感に欠け、ウィル・グラック監督の前作『ステイ・フレンズ』のクライマックス同様、フラッシュモブでも見てる感が強い。そんな軽いノリで観るには問題なし。前作のヒロイン、ミラ・クニスがリアル彼氏のアシュトン・カッチャーと登場する遊び心も嫌いじゃないです。
安定感ハンパねー
安全走行に心地良く乗せられ、お約束ポイントで号泣(笑)。オリジナル(&82年のJ・ヒューストン監督作)の大恐慌における理想論を、格差社会とSNSを軸に脚色して、ちゃんと『SATC』以降のN.Y.物語になっている。「ストリートからの成り上がり」とのヒップホップ的主題を『アニー』に見ている辺り、製作のウィル・スミスやJAY-Zらの世代性を感じさせるものだ。
『小悪魔はなぜモテる!?』等の俊英W・グラック監督も大仕事を手堅くこなし、全てが信頼できるプロの仕事。ゲスBBAを怪演するキャメロン・ディアス(90年代の栄光にすがってる点で『ヤング≒アダルト』のC・セロン的)も最高で、ますます好きになった!
アニーよりキャメロン・ディアスの扱いに涙
『レ・ミゼラブル』に『ジャージー・ボーイズ』とミュージカルの映画化が続く。中でも日本で最も根付いている作品と言えば本作。それを現代版に置き換えるとは野心的な。
孤児アニーが出会う大富豪にN.Y.の市長候補という要素を加え、彼女をイメージUP戦略に利用するなど、ネット&格差社会を反映した俗な展開に戸惑ったり、感心したり。そんな揺れる心を、絶妙なタイミングで入るお馴染みの楽曲たちがなだめていく。良くも悪くも、改めて歌の力の偉大さを実感するに違いない。
ただ映画ファンにとっては、色物キャラと化したC・ディアスの方に世の移ろいや現実の厳しさを見るだろう。彼女にこそ「Tomorrow」を!