人の望みの喜びよ (2014):映画短評
人の望みの喜びよ (2014)ライター2人の平均評価: 4
世界の沈痛さに耐えて歩きつづける
東京・名古屋以外の上映が未定のようなので推しておきたい。監督は1980年生の新人・杉田真一。地震で両親を失った幼い姉弟の姿を描く。悲しい事実を知らされず、無邪気にふるまう弟(大石稜久)。子供としての痛みと、大人の体面に引き裂かれている気丈な姉(大森絢音)。この2人の佇まいが喪失の大きさを伝え、強く胸を打つ。
特に寡黙さを極める後半の旅が詩的で圧巻なだけに、前半、姉弟を迎え入れる人間模様がやや類型に流れ平板に感じた事は正直申し上げたい。『誰も知らない』ではないが、全体にドキュメンタルな立体感が出ていれば傑作の域に入ったのでは。それでも真摯さに疑いはなく、たくさんの観客に出会って欲しい一本だ。
小さき声を拾う。これこそ映画の役割
東日本大震災を題材にした劇映画は数多いが不満があった。女性が体を売ったり、避難区域に戻るのは認知症の高齢者だったり。゛映画的゛を狙ったのかもしれないが、被災者の鬱積を表現するには安易と言わざるをえない。だが本作は、両親を失った12歳の少女に徹底的に寄り添う。
親戚や、両親の死を認識していない弟の前で見せる作り笑顔。逆に重圧になる周囲の頑張れの声。恐らくドキュメンタリーだったらなかなか子供の本音は聞けないが、同様の思いをしているであろう子供の心情を代弁する。これこそ劇映画だから出来ることだ。
もっとも本作は災害を特定していない。姉弟を見ながら、世界中の震災孤児に思いを馳せた。