ヒメアノ~ル (2016):映画短評
ヒメアノ~ル (2016)ライター5人の平均評価: 4.8
吉田恵輔監督が師匠に寄ってきた
いたずらに人間の狂気を描いた作品ではない。
到底、主人公・森田の暴力は肯定出来ない。
だがしかし、彼をここまで非・人間的にさせた理由には非常に説得力がある。
いじめ問題。傍観者も加害者であると言われる。
同級生・岡田が、まさに。
だが、久々に再会した岡田の無邪気さが、
一層森田を傷つけていく。
加害者と被害者の温度差。
きっと岡田には、永遠に森田の哀しみは分かるまい。
吉田恵輔監督は、そうしたイジメ問題の本質を的確に捉えて演出している。
これまで師匠である塚本晋也監督の作風とあえて異なる作品に挑んできたが、やはり似た性質を持っているようだ。
その新境地を大歓迎。
日本映画史上最凶のストーカー映画かも。
吉田恵輔の映画は常に、その軽妙な見せかけのすぐ裏に狂気が潜んでいるが、これはその部分が異様なまでに膨れ上がった怪作。舞台ではそのタブーなき演技力が高く評価されている森田剛だが、よくぞここまで…な狂気っぷりで並み居るサイコ・マニアックの中でも最も怖い部類。情け容赦ない描写は古谷実の原作以上、セックスと殺人を並列モンタージュしたり、レイプしようとした相手が生理中だったりするド下品さに凍りつく(笑)。でも佐津川愛美の体温の感じられるエロさは監督のロリ嗜好にどんぴしゃと思われるし、もはやトレードマークとも思えるまっぷたつに割った構成の、音響・音楽の使いわけも練り上げられているのだ。
日常と隣り合わせの暴力を象徴的に描く衝撃作
えらく挑戦的な映画だ。前半はちょっとシュールな青春コメディ、後半は凄まじくバイオレントなサイコサスペンス。中盤からジャンルそのものをガラリと変えることで、いつもの生活空間が悪夢の世界へと変わる瞬間をリアルに捉える。
一見すると普通の若者だが中身は完全に壊れたサイコパスの森田。あえてその深層心理など掘り下げず、何をしでかすか分からない、何を考えているのか分からない怪物に仕立てた引き算の演出も秀逸だ。森田剛の抑制の効いた演技が、得体の知れない怖さを引き立たせる。
不快指数MAXな残酷描写は賛否あるかもしれないが、しかし我々の日常と隣り合わせの暴力をこれほど象徴的に描いた作品もなかなかない。
吉田恵輔、もはや横綱相撲!
人気漫画の映画化という分野では『アイ アム ア ヒーロー』がひとつの画期となった感があるが、達成度では本作も全然負けていない。驚かされるのは古谷実の特濃な原作を、吉田恵輔監督が完全に「俺の映画」としてプレイしきっていることだ。
内容は吉田の初期中篇『なま夏』の変奏とも捉えられる。あの作品に横溢していたストーカー中年の「笑い」と「恐怖」の表裏一体を、今回はジャンルごと転調する構成を取った。原作を独自に対象化する視点が抜群で、特にセクシュアルな側面は中盤(というか後半の序盤)に用意されたカットバックなどで鮮烈に再構築。森田剛はじめ役者陣のレベルもすべて高く、「傑作で当たり前」な監督の余裕の一本!
言うまでもなく、2016年ベストワン!
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』好きだけに、これまで『机のなかみ』『さんかく』など、前半パートと後半パートでテイストを変えた作品を放った吉田恵輔監督。今回、本編中盤にクレジットタイトルを挟むあたり、その本気度はガチ。撮り方も、色味も、芝居もまったく異なる仕掛けだ。その“共犯者”が森田剛であり、前半で影を潜めていた狂気が一気に爆発! 彼演じる快楽殺人鬼に対し、監督は「共感できないものは共感できない」と、一定の距離感をとり続けるが、優しさと憐れみに溢れたラストを用意するサプライズは涙腺を直撃。監督をゆうばりファンタで初めて評価したトビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』オマージュも泣かせます。