アメリカン・ドリーマー 理想の代償 (2014):映画短評
アメリカン・ドリーマー 理想の代償 (2014)ライター4人の平均評価: 4
高潔な理想家に突きつけられた競争社会の残酷な現実
犯罪や汚職が蔓延る’80年代初頭のニューヨークを舞台に、一代で財を成した苦労人の実業家が会社存続の危機に直面する。
清廉潔白なビジネスを信条としてきた主人公アベル。しかし、それは生き馬の目を抜く競争社会においては弱点であり、事業の拡大を図った途端に様々な妨害や嫌がらせを受け、さらには当局から疑惑の目まで向けられてしまう。
誰にでも平等にチャンスの与えられる自由の国では、しかし成功にも幸福にも当然のごとく高い代償が求められる。それはアメリカだけに限った話ではないだろう。夢を追い求める高潔な理想家の眼前に広がる凍てついたグレーな世界は、まるで資本主義社会の残酷な現実を突きつけるかのようだ。
ジュリアーニが浄化する前のニューヨークはこんな感じ?
移民から身を起こした男に降り掛かった災難を描く静謐なドラマだが、素晴らしいのが80年代ニューヨークの作り方。ゴミゴミとした街並みやアメ車だらけの高速はもちろん、『ゴッドファーザー』に登場しそうなバーバーや車両移動が可能な電車、主人公に絡むユダヤ系地主やチームスターなどなど。ルディ・ジュリアーニ元市長が地方検事として犯罪撲滅を始める2年前、犯罪率が最高だった1981年を再現した絵作りに感服。さすがJ・C・チャンダー監督! 正直者は損をするのかと思わせるオスカー・アイザックの緻密な演技と愛妻役ジェシカ・チャスティンのマフィア流が抜けない安っぽい感じがまた物語を盛り上げて見事だ。
澱んだ空気の中で、何を守り、何を捨てるか?
社会派の鬼才シドニー・ルメットが『プリンス・オブ・シティ』でNY警察の汚職の暗部をえぐったのが1981年。それを思い出したのは、当時ルメットが描いていた街の空気の“澱み”が、本作からも伝わってきたからだ。
誰もが手を汚して生きている時代に、誠意とともに生きることの難しさ。銀行、検察、同業者、部下、家族など、そのどれかを立てれば他のどれかが立たない。悪意という名の“澱み”の中では美しく泳ぐことができないのだ。
そんな困った状況下での主人公の運命がスリリングで、同時に重みのある人間ドラマも成立。彼は何を守り、何を捨てるのか? 注目株J・Cチャンダーの才腕ともども目が離せない。
冷える街で、誰もが強欲
上品で洗練された荒廃ーー撮影のブラッドフォード・ヤングは、それをより鋭く正確な形でスレームに嵌め込むことを目指したと語る。舞台は、アメリカが現在に向けて大きく舵を取り、史上もっとも犯罪件数が多かった81年のニューヨーク。オイル会社の事業拡大を巡る物語に登場する人間たちは、誰もが強欲だ。その中に強い者と弱い者、賢い者と愚かな者はいるが、すべての人が例外なく強欲。主人公は途中で何度も、別の人間から「なぜ、そんなに執着するのか?」と問われるが、それに返答することが出来ない。アメリカン・ドリームとは何かを描くこの映画に、記録的な寒さの中で撮影された、白く乾いた冬のニューヨークがよく似合う。