モアナと伝説の海 (2016):映画短評
モアナと伝説の海 (2016)ライター4人の平均評価: 3.8
海上がデスロードと化す!
ポスト「レリゴー」な主題歌に惑わされてはいけない。『リトル・マーメイド』でディズニー・プリンセスの存在を復活させた監督コンビが、その流れを自らブチ壊す意欲作だ。「未来少年コナン」な導入から活劇が始まる匂いがプンプンし、海上の“デスロード”と化す。モアナはマウイが放つ“プリンセス”の言葉を一蹴したうえ、2人のロマンス要素は皆無。そのため、関係性はフュリオサとマックスに、暴走止まらぬ武装海賊カカモラはウォーボーイズに見えてくる。劇伴まで意識したのはやりすぎかもしれないが、これも時代の流れ。王道のプリンセスものは実写リメイクに任せ、アニメスタジオは攻めまくる。そんなディズニーの英断がスゴい。
ありのままの先を行く新たなディズニー・ヒロイン
南洋ポリネシアの神話伝承を背景に、海をこよなく愛する少女モアナの大冒険が描かれる。村長の後継者として親から期待される役割を受け入れながらも、自らの心の声に従って運命を切り拓いていくモアナは、まさに近年のディズニー・プリンセスの王道だが、しかし本作では民を率いるリーダーとしての資質も問われ、より進化した英雄的なヒロイン像が打ち立てられるのだ。
南国の豊かな緑と青い海を描き出したCGアニメーションの美しさも特筆もの。中でも、様々な表情を見せる海の水の表現力は『ファインディング・ドリー』も顔負けだ。また、日本語吹替版のクオリティの高さもさすがディズニー。モアナ役・屋比久知奈の歌唱力には脱帽です。
アクションはマッドマックスばり! 屋比久知奈の吹替版も必聴
予定調和的に幸福をつかむ物語を過去のものとし、同時代のヒロイン像を追求し続けてきたディズニーアニメが、ここまで到達したかという感慨が深い。オセアニア文化をベースに描かれるのは、恋愛の苦悩ではなく、本能に従って大海原へと向かう少女の旅立ち。トロピカルなイメージを抱いていれば、マッドマックスばりのアクションシーンに度肝を抜かれる。進化したCGIによる、豊かな海の表情に眼を瞠る。テーマは、甦るプリミティブな身体性。ブロードウェイの売れっ子の作詞作曲による主題歌が耳に残る。オリジナル版の歌唱に負けず劣らず、日本語吹替版で大抜擢された新人・屋比久知奈の伸びやかで力強い歌声が、世界観を鮮やかに体現する。
海洋民族の物語だから"海"がキュート!
海が、文字通り登場人物のひとりになっている。これは、いつものディズニーアニメお得意の擬人化キャラとは、ちょっと意味合いが違う。海が、ヒロインやその祖母と心を通わせるのは、この物語がポリネシアの海洋民族の文化に基づき、海を人間と交流する存在としてとらえているからだ。目鼻もなく言葉も持たない海が、さまざまな表情を見せる。その色、透明度も変化する。
海と生きる世界で、ヒロインは海をどこまでも進んでいきたいという衝動につき動かされる。おとぎ話の主人公は"行って帰る"のがお約束だが、このヒロインはちょっと違う。そんな彼女が自分の気持ちをまっすぐに歌う「How Far I'll Go」が心地よい。