マダム・フローレンス! 夢見るふたり (2016):映画短評
マダム・フローレンス! 夢見るふたり (2016)ライター4人の平均評価: 4
メリル先生、ものまね王座決定戦ならマジで優勝!
メリル・ストリープといえば「上手い」の代名詞であり、それゆえの臭味が時に揶揄や皮肉の対象にもなるが、しかし本作の物真似には誰もが素直に感嘆するはず。マダムのオリジナル迷唱は『ハイCsの殺戮』というカルトな珍盤などで聴けるが、難易度の高いアリアに挑んで音程を超絶にぶっちぎる……その逸脱がヘタウマの魅力や愛敬に転化するレベルまで完コピしているのだ。
舞台は40年代N.Y.だが、作風は完全に適量の毒がきいた英国喜劇ってのも面白い。的確な受け芝居のH・グラント、S・フリアーズの演出など全てがプロの仕事。人間模様として生っぽかったのは『偉大なるマルグリット』の方だが、こちらは「芸」を堪能させる映画だ。
これはヒュー・グラント久々の当たり役!
あまりの音痴ゆえ史上最低の歌姫とも呼ばれるフローレンス・フォスター・ジェンキンス。その人生は仏映画『偉大なるマグリット』でも描かれたが、あちらは彼女をモデルにしたフィクション。こちらは正真正銘の伝記映画だ。
まさに事実は小説よりも奇なり。自らの才能を勘違いしたヒロインの思い込みは確かに滑稽だが、しかし天衣無縫に見える彼女の抱えた人生の重みにしんみりと胸打たれ、そんな妻の夢を全力で支える夫の献身に本人たちしか分からぬ夫婦愛の真髄を垣間見る。
‘40年代ニューヨーク社交界の優雅、メリル・ストリープの味わい深い演技も見ものだが、なんといっても年輪を重ねたヒュー・グラントのチャームが素晴らしい。
フランス版より好きです
同じ実在したオペラ歌手をモデルにした仏映画『偉大なるマルグリット』がある。
仏で大ヒットしたそうだが、鑑賞後は苦かった。
純粋無垢にオペラを楽しむ主人公を、鼻で笑う”おフランス”貴族。いたたまれない。
だが本作のヒロインは無垢だけじゃない。
M・ストリープが演じている時点で全身から苦労が滲み出ちゃっているが、彼女がオペラに情熱を傾けざるを得なかった…とも言うべき人生ドラマもきっちり。ゆえに一層、大ステージに立つクライマックスシーンが際立つ。
音痴、だけど彼女の確固たる意思が歌声にノッて胸に響いて来る。
その時、当時の人たちがなぜ彼女に魅了されたのか?が理解出来るのではないだろうか。
英国人監督フリアーズがちょっと変わった女性を魅力的に描く
ヒロインのモデルは実在の人物。19世紀末に生まれ、音痴なのにそれに気づかず、自分を名歌手だと信じて莫大な遺産を使って公演を開き、一種の人気者になった女性だ。
そんな人物だから解釈の仕方は多々あるが、この映画は、彼女を愛すべき魅力に満ちた人物としてとらえる。そしてその魅力を、新人ピアニストが彼女に出会って魅せられていくさまを通して描いていく。彼女は愚かなのではなく、ただ歌うことに喜びを感じ、だから歌っただけ。彼女の最後の言葉は、それを実践した誇りに満ちている。ちなみに監督スティーヴン・フリアーズは英国人、ヒロインの夫も英国人。英国は奇人変人を許容するお国柄のような気がする。