ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち (2016):映画短評
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち (2016)ライター5人の平均評価: 3.6
風の少女を愛でる「デイドリーム・ビフォア・カタストロフ」
確かに奇妙なバートンらしさ全開だ。人との違いに戸惑う感傷性は溢れんばかり。古城に棲みつく淋しげで異形な者たちは、X-MEN的に世界の救済を担うのでなく、自らの苦悩を癒すためにこそ異能を発揮する。だがこれまでとは何かが違う。闇を愛したバートンにしては妙に明るい。悲劇の直前に時間を戻すため、最後の1日をループする物語の中で強調されるのは、楽しげな昼の世界。原作改編点が興味深い。少年が恋心を抱くヒロインは、火を扱うのではなく空中浮遊し空気を操る。そう、“風の少女”に変わったのも大らかさの証。異能力者による「デイドリーム・ビフォア・カタストロフ」。終幕も吹っ切れている。彼の転換点になるかもしれない。
奇妙なバートン監督が教えてくれる多様性と寛容性
風変わりに生まれついた子供たちが登場する児童書の映画化は、多様化を許さない気配が日々濃厚になるアメリカに対するティム・バートン流の「NO」なのかもしれない。トランプ政権に抵抗する意味で暴れたバークリー大の学生運動をニュースで見ながら、奇妙な子供たちが一丸となって巨悪に戦いを挑む姿を思い出した。エイサ・バターフィールド演じる主人公ジェイクが自身をすごく平凡な人間と思い込んでいたけど実は……という設定は、世界の大多数の人間に当てはまるわけで、誰が見ても共感必至。映像も美しく、物語のテンポも快活。そしてなによりも、自分と違う存在をあるがままに受け入れる寛容さをも教えてくれる作品だ。
いかにもティム・バートンなアイテムがいっぱい!
壊れた玩具、骸骨、見世物小屋など、久々にティム・バートンらしいグッズが続々。少女の履く靴のデザインまでティム・バートン風。ちょっと怖くて奇妙なのに、とってもキュートーーそんなこの監督の映画にかつて溢れていた感覚が、あちこちでふとした拍子に顔を出す。なにしろ、主要登場人物からして、他の人間とは異なる奇妙な力を持った子供たち。自ら自分もそんな子供だったと告白するティム・バートンに、これほどぴったりな題材はない。子供たちはみな能力だけでなくルックスもユニークだが、中でも頭部にすっぽり袋をかぶった双生児が最高。この監督はまたあの世界を描いてくれるかもしれない。そんな期待が高まってくる。
いかにもティム・バートンらしい壮麗なダーク・ファンタジー
古い絵本のごときノスタルジックで壮麗なビジュアルといい、世間から身を隠して生きる異形なる者たちの哀しみといい、いかにもティム・バートンらしいシュールでファニーなダーク・ファンタジー。これを進歩のない安全パイと見るか、それともティム・バートンの本領発揮と見るかで評価も分かれるだろう。
個人的にはやはり後者。主人公ジェイクと唯一の理解者である祖父(テレンス・スタンプ)との絆は『シザーハンズ』のジョニデとヴィンセント・プライスを彷彿とさせてホロッとするし、『アルゴ探検隊の大冒険』のごとき骸骨軍団の賑やかな活躍も素直に楽しい。ちょっと怖いけど頼りになるミス・ペレグリン=エヴァ・グリーンもはまり役!
もしも、ティム・バートンが『X-MEN』を撮ったら?
個性的な『X-MEN』的キャラに加え、脚本が『ファースト・ジェネレーション』『フューチャー&パスト』にも参加したジェーン・ゴールドマンだけに、青春ドラマやタイムリープ要素もアリ。このように“もしも、ティム・バートン監督が『X-MEN』を撮ったら?”なノリで観れば、前作『ビッグ・アイズ』に及ばないが、それなりに楽しめる。ただ、あまりに唐突なエンディングなど、原作ファンも太鼓判と言い難い脚色は気になる。そして、出番が少ないなか、美味しいところは持っていく“ダークなメリーポピンズ”ペレグリンのエヴァ・グリーン。以前なら、ヘレナ・ボナム=カーターが怪演した役だけに、オトナの男女の事情が見え隠れする。