パワーレンジャー (2017):映画短評
パワーレンジャー (2017)ライター5人の平均評価: 3.2
カタルシスよりも多様な若者たちの葛藤・結束・成長を優先
フィジカルが躍動する場は“採石場”。洗練されたヒーローデザインは、あくまでも“卵形の頭とタイトな全身スーツ”。そしてゴージャスなフルCGの“合体ロボ”。「スーパー戦隊」の骨格を守りつつも、製作費120億円でワールドワイドに展開するには、こうしなれば説得性に欠けるとする監督のこだわりが炸裂。鬱屈を抱えたヒーローらしからぬ他人同士の若者たちが連帯感を強めるまでの物語が延々と描かれるのだ。出自が異なる選ばれし5人の結束と成長がなければ力は発揮できないとする演出には、オリジナル版への批評性を感じさせるが、歌舞伎や時代劇の流れを汲み、大見得を切る「型の文化」であることが理解されていないのは残念だ。
日本生まれのスーパー戦隊はアクションもVFXも手抜きなし!
日本発の子供向け特撮テレビドラマ『パワーレンジャー』を、『アベンジャーズ』さながらのスケール感で劇場用にリブートしたスーパーヒーロー映画。平凡な田舎の高校生たちが、いかにして「スーパー戦隊」結成へと至ったのかを描くわけだが、印象としては「パワースーツに身を包んだファンタスティック・フォー」といった感じだ。
それぞれに深刻な悩みを抱えた若者たちの友情と成長を軸にした青春ストーリーは、オリジナルよりも対象年齢が明らかに高めだが、明朗快活で心躍るジュヴナイルな魅力は健在。アクションやVFXに全く手抜きのないところや、主演の若手陣をブライアン・クランストンらベテランが支える配役のバランスもいい。
スーパー戦隊シリーズがうんと贅沢な映画になった
原点は日本のスーパー戦隊シリーズ、なので子供が見てもおもしろいよう作られているが、子供専用ではなく、大人が見ても納得の充実ぶり。まず、ストーリー。主人公5人はみな個人的な問題を抱えていて、最初は友人ではない。そんな彼らが他人と力を合わせることの魅力を知り、チームとなっていく、成長物語になっているのだ。そして、映像も子供っぽさを排したもの。レンジャーのスーツの赤、青、黄色も影などを使って原色ではない色に見えるよう工夫されている。バトルの映像も豪華。スーパー戦隊シリーズのお約束通り、人間サイズ版、巨大マシン搭乗版、そのマシンの合体版と、各サイズでの戦闘がVFXを駆使した贅沢な映像で楽しめる。
モーフィンする『ブレックファスト・クラブ』
父親からのプレッシャーやイジメにLGBTと、諸事情抱えまくりの主人公たちが、補習授業で顔を合わせる“『ブレックファスト・クラブ』in 戦隊ヒーロー”。「仮面ライダーフォーゼ」の影響?と思わせながら、『クロニクル』なアプローチとなることで、『プロジェクト・アルマナック』監督の抜擢理由も納得だ。『トランスフォーマー』意識しまくりのアクション・シークエンスに至るまで、なかなかモーフィン(変身)しないドラマ重視の展開は悪くはないが、このテンションで2時間超えの尺は厳しい。オリジナルの曽我町子に対抗すべく、『ピッチ・パーフェクト』ばりの悪ノリでリタ様に挑んだエリザベス・バンクスも浮いてしまった感もある。
正しい形でアップデートされた2017年のパワーレンジャー
今回の5人は、白人ふたり、黒人、アジア人、ヒスパニックがそれぞれひとりという構成。男女比は3対2で、そのうちひとりはレズビアンかもしれないことを匂わせる。だが、政治的に正しくするためにやったという押し付け感は皆無。それぞれに個人や家庭の問題も抱えていて、これこそ現代のアメリカの高校生だと自然に受け止められるのだ。シリーズ化を念頭に入れて製作された今作は、彼らが変身できるようになるまでの部分に時間を割いており、レンジャーたちが暴れ回るのは後半になってから。しかしそれらのアクションシーンは楽しいし、ほどよくノスタルジアを感じさせてもくれる。