彼女がその名を知らない鳥たち (2017):映画短評
彼女がその名を知らない鳥たち (2017)ライター4人の平均評価: 4
大阪の片隅で無償の愛を叫ぶ。
『ユリゴコロ』同様、沼田まほかる原作のイヤミスであり、どちらもブッ壊れた松坂桃李の姿が観られるが、ジワジワと後を引きずるのは、明らかにこちらだろう。イヤミスの枠を超え、クズのような性悪女と下品すぎるダメ男、そして3人のゲス男が織りなす、あまりにも美しくせつないラブストーリーなのだから。とはいえ、意外とサラリと観られるのは、キャスティングの巧さ。『牝猫たち』に続き、白石和彌監督は女性を描かせた方が巧いことを証明し、去年から始まった“蒼井優の逆襲”の頂点というべき一本を作り上げた。また、東淀川の商店街など、決してザ・大阪じゃない風景も、“無償の愛の物語”を語るうえで、見事な効果を醸し出している。
人間の美醜の全てを包み込む究極の純愛ドラマ
下品で汚いオッサンに性格の歪んだ寄生虫女、クズみたいなDV野郎にスカしたむっつりスケベ男と、これだけ好感度の低い登場人物しか出てこないのに、紛れもない純愛ドラマであることに驚かされる。人間の醜さも愚かさも強さも美しさも、全てを包み込んだ上で語られる究極の愛のカタチ。綺麗ごとにまみれた数多の日本の恋愛映画に、強烈な一撃を食らわせる快作にして怪作だ。
役者陣もいずれ劣らぬ力演だが、中でも松坂桃李のエロさときたら!蒼井優とのねっとりした絡みは秀逸。こういうのを濡れ場って言うんだよね。『日本で一番悪い奴ら』でもそうだったが、白石監督はセックスを通して登場人物の本質や感情を描くのが本当に上手い。
“破れ鍋に綴じ蓋”な男女の奇妙な愛のハーモニー
イケメンに弱いメンヘラ女とそんな彼女に誠心誠意つくし続ける中年男の描写が原作では凄まじいのだが、罵詈雑言の部分を割愛した脚色のおかげで不快感は激減。自分勝手でわがままな十和子も重すぎる愛を捧げては拒絶される陣治も客観的に見るとダメだし、友達にはしたくないタイプ。十和子が惚れるイケメンたちもとんでもないクズばかり!? ただ蒼井優&阿部サダヲが“破れ鍋に綴じ蓋”な男女を好演しているため、二人の弱さを「人間だもの」と温かい気持ちで見守ることができた。割と早い段階でオチがわかるのでミステリーとしては弱いので、ラブストーリーとして見るのが正解でしょう。
吐き気がするほどロマンチック、なコク深の傑作!
ディープな原作小説をディープなまま映画化。白石和彌監督はこの物語を扱う際、まずはなるだけ正確な「社会的位相」に置くことに細心の注意を払ったのではないか。ごちゃごちゃ物だらけの狭いアパートに住む、ガラケー持ったクレーマー。不機嫌でヒステリー、だけどイケメン好きで怠惰(=欲望に弱い)。そんな無職のヒロイン像が提示され、前作『牝猫たち』に続き「女のドラマ」と「日本論」がガッチリ接続した。
そのうえで役者陣の凄みが爆発。全員最高。蒼井優は『オーバー・フェンス』、阿部サダヲは『夢売るふたり』の成果からジャンプした印象もある。特に「下層の王子様」という言葉が思い浮かんでしまった終盤の展開は超圧巻!