おじいちゃんはデブゴン (2016):映画短評
おじいちゃんはデブゴン (2016)ライター3人の平均評価: 3
笑い控えめ、情感は濃いめ
“デブゴン”のイメージからくる笑いの要素は控えめで残念。アルツハイマーという設定上シリアスにならざるをえなかったのかもしれないが、現代性を取り入れたドラマに重きを置いたと解釈すれば、これはこれでアリ。
編集段階でカットされた部分があるのかドラマのつながりに少々、不自然な箇所はあるものの、主人公と少女の交流から軸はブレないので話はスンナリ飲み込める。サモハンの抑えた演技も悪くない。
それでもサモハン、格闘場面ではやはり輝くし、ピシッと決まった構えの“型”は背筋が伸びていて、デブゴンとはいえ美しさえ感じさせる。前半のアクションを引っ張るアンディ・ラウの頑張りも嬉しい。
日本公開は有難いが、これじゃない感MAX!
サモ・ハンが『グラン・トリノ』な設定で、『レオン』『アジョシ』な展開と聞けば、ある程度の予想はつくはず。だが、思うようにストーリーは転がらず、イラつくばかり。『ファースト・ミッション』『イースタン・コンドル』など、ドラマとアクションを巧く融合させた、かつての監督作とのギャップに驚きを隠せないが、それもそのはず。執行導演と脚本を中国大陸の人間が務めた“中国市場向け”ということで、香港映画独自の展開や笑いは皆無に近い。ゲストに関しても、今ではお目にかかれないチンピラ役を熱演するアンディ・ラウを除き、ムダ遣いの域。懐かしさだけで、関節技全開のクライマックスのバトルまで待つには、厳しい仕上がりだ。
俺が元祖カンフー・パンダだ!
みやぞんの『スパルタンX』ネタで普通にノスタルジーに悶える世代としては、サモ・ハン(・キンポー)監督・主演という事実以上に「泣ける画」が満載。一瞬、梅宮辰夫か?と見紛うものの、いやいや、男の顔も腹も固有の履歴書。アクションが立ち上がるまでは結構溜める展開だが、ずっと見入って(=魅入って)しまう。そして客演の凄さ。ツイ・ハークまでいるよ!
お話はどうしても『グラン・トリノ』を連想するが、実際これはイーストウッド的な自作自演と言えるのではないか。サモ・ハンの存在自体が「設定」や「物語」以上にドラマティック。その特権的肉体が、シンプルな映画の形に唯一無二の人間味や歴史の多層性を付与しているのだ。