ローサは密告された (2016):映画短評
ローサは密告された (2016)ライター3人の平均評価: 4
ドキュメンタリータッチを超え、社会悪を再現し告発する強い意志
生きていくための麻薬売買。警察の公然とした腐敗ぶり。マニラのスラム街で常態化した光景に、手持ちキャメラが肉薄していく。ドキュメンタリータッチという言葉では収まりきらぬほど、社会構造の悪循環を再現する強烈な意志が見て取れる。我々はその場に立ち会わされ、当時者性さえ覚えてしまう。過激な手法で麻薬撲滅を進めるドゥテルテが大統領になった国の、愛だの正義だのと綺麗事を言っていられない危うい日常がここにある。権力の横暴に抗うことも出来ず、保釈金を用意するために奔走する家族の姿が痛ましい。サスペンスを味わわせるためではない。ブリランテ・メンドーサ監督は、負の連鎖を断ち切らんとして告発している。
ドゥテルテ大統領のような指導者が必要とされる現実がここにある
麻薬密売で夫と共に逮捕されたマニラの主婦ローサが、警察から要求された多額の「見逃し金」を収めるため金策に走る。さもなければ、子供たちが路頭に迷ってしまうからだ。
ドキュメンタリーかと見紛うばかりの圧倒的リアリズム。驚かされるのは、市民生活の隅々にまで行き渡った麻薬汚染の深刻さと、骨の髄まで腐りきった警察組織の堕落ぶりだ。この広い世界には、我々の考える正義やモラルなど通用しない社会があることを改めて痛感させられる。
フィリピンのドゥテルテ大統領の強硬姿勢には批判があって然るべきだと思うが、しかし本作を見ると、彼のような指導者が必要とされる現実が歴然と存在することも思い知らされるだろう。
それでも、腹は減る。
真鍋昌平な闇の観点を持つブリランテ・メンドーサ監督だが、ふとしたことで地獄を見る主人公を、ほぼ一日で描き切った本作は、カンヌで監督賞を獲った『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』にかなり近い。だが、本作がより観客の心をつかんでいる理由は、肝ッ玉母ちゃんを演じたジャクリン・ホセの存在ほかならない。警察署“裏”で取調べ(という名の嫌がらせ)を受け、中盤から保釈金を工面する息子たちに焦点が当たる展開から、一瞬「これでカンヌ主演女優?」と思ったりもするが、どんなに過酷な状況でも、どんなに感情が沸き上がっても、とりあえず腹は減ることを表現したシーンに圧倒。長女が転ぶシーンなど、何気ないシーンがスゴい。