アトミック・ブロンド (2017):映画短評
アトミック・ブロンド (2017)ライター5人の平均評価: 3.8
疲弊した彼女をも輝かせる過激で生々しく果てしない実戦ファイト
長躯の優れたフィジカルで魅せると同時に、自らを傷つけることで逆説的に美貌を際立たせてきたシャーリーズ・セロンにとって、このスパイ大活劇はフュリオサ(マッドマックス~)後の大きな到達点。スタント/アクション指導のプロであるデヴィッド・リーチ監督による、過激で生々しく果てしない実戦ファイトは、格闘後の疲弊した彼女をも輝かせる術を十二分に心得ている。ベルリンの壁崩壊直前の1989年という混沌とした状況下、スパイ暗躍のアングラなムードを醸成する美術&音楽、超絶的キャメラワークも魅惑的。<ジェイソン・ボーン×ジョン・ル・カレ>というコンセプトに誤りはないが、物語の語り口がもどかしいのは何とも残念だ。
ある意味、フュリオサ様以上の存在感
シャーリーズの“男”性をアクション・ドラマに活かす、という点で『マッド・マックス/怒りのデス・ロード』的。今回はピンの主役なので、ヒロインのキャラはより際立った。
痣だらけの裸身を氷風呂に浸す冒頭からして、エロチックと言うよりはスゴみを感じさせる。笑顔のないクールな表情はハードボイルドだし、ムダのないしなやかさは肉食獣的。
アクションのスゴみは言うまでもなく、長回しによるビル内の格闘は最大の見せ場。オッと思ったのは、格闘が進むほどダメージを受けたヒロインの動きが鈍り、最後はヨレヨレになる点。リアリティを踏まえたこのヒロイン・アクション、なかなか硬派なのだ。
シャーリーズに殴られたい男子が増えそう
壁崩壊後のベルリンを舞台にしたスパイものというジョン・ル・カレ小説っぽい展開をポップなアクションにした痛快作。スパイを演じるシャーリーズ・セロンのクールな役作りがまず猛烈にかっこいい。氷風呂で打撲を、心の隙間をフランスの女スパイで癒すあたりは女版007? 『ジョン・ウィック』監督コンビの片割れ、D・リーチ監督らしさを発揮するアクション演出が素晴らしく、シャーリーズはゴムホース1本で警官集団をなぎ倒し、疾走する車内で格闘を繰り広げる! 長身で筋肉質な彼女だから大男相手の格闘もリアルだし、殴られたいと思う男性もいるかも。D・ボウイやデペッシュ・モードといった時代を感じさせるサントラも効いている!
シネフィル的小ネタもいかした超スタイリッシュ・アクション
壁が崩壊する直前の東西ベルリンを舞台に、盗まれた極秘情報の行方と裏切り者の存在を追う英国女スパイの活躍を描く。『ジョン・ウィック』の共同監督によるグラフィック・ノベルの映像化だが、意外にもジョン・ル・カレ的な本格スパイ物の要素も濃厚だ。
とはいえ、やはり最大の見どころはシャーリーズ・セロンの超絶アクション。明らかにデビー・ハリーを意識したブロンド・ルックも決まっており、惚れ惚れするほどカッコいい。また、タルコフスキー監督『ストーカー』のワン・シーンを引用したり、ファスビンダー映画の女神バルバラ・スコヴァをカメオ出演させたり、BGMにさりげなくヴィソツキーを紛れ込ませたりするセンスもいかす。
“シャリ姐版『ジョン・ウィック』”にあらず
MI6のくせに、どこかギリギリな女スパイ。そんなまだまだあったシャーリーズ・セロンの魅力を引き出しながら、階段からカーチェイスまで7分半の1カット・アクションも容赦なし。決して斬新な話ではないが、1989年・東ベルリンという時代を使い、「ブルー・マンデー」から「アンダープレッシャー」まで、ベタながらしっかりアガるサントラや、エディ・マーサンなど贅沢な助演陣の使い方など、細かく計算して作っているのが伺える。デヴィッド・リーチ監督は、この一本で『ジョン・ウィック』で共同監督だった体育会系脳のチャド・スタエルスキとは、センスも志も違うことを魅せつけた。これなら次回作の『デッドプール2』も安心だ!