パティ・ケイク$ (2017):映画短評
パティ・ケイク$ (2017)ライター4人の平均評価: 3.5
ニュージャージーノラッパー
ラッパーを夢見る巨漢ヒロインが葛藤しまくるだけでなく、手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー・タッチの映像や、一世一代の勝負シーンなど、かなり『SR サイタマノラッパー』。そんな“ニュージャージーノラッパー”がデビュー作となるジェレミー・ギャスパー監督によるオリジナル楽曲も、かなりの出来だ。ただ、ヒロイン・パティとキャシー・モリアーティ演じる祖母とのエピソードが面白いだけに、元歌姫の母親とのエピソードがあまりにベタすぎて、いまいちパンチに欠ける。とはいえ、職人気質を感じさせる監督は起用され、クライマックスで別人となるパティ役のダニエル・マクドナルドは、第二のレベル・ウィルソンになっていくはず。
弱者の怒りと絶望を込めたラップ、その魂の叫びが胸を打つ
アメリカ社会の掃き溜めのようなニュージャージーの片隅で、金なし職なし男なしのデブなホワイトトラッシュ女という、最下層のさらに最底辺でもがき苦しむ負け犬ヒロインが、積もりに積もった怒りや絶望をラップでぶちまけながら、ヒップホップの世界で這い上がろうとする。
音楽系青春ドラマのフォーマットを応用しつつ、弱者の視点を通して現代アメリカ庶民の残酷な現実を映し出す。主演のダニエル・マクドナルドが見事。まさに魂の叫びとも言うべきラップは圧巻だ。彼女の数少ない味方が、インド系移民の若者に自閉症の黒人青年、車椅子の偏屈な祖母(「レイジング・ブル」のキャシー・モリアーティ!)というのもパンチが効いている。
パティのラップがカッコイイ!
痛快! 主人公パティがイイ奴なのだ。貧困家庭育ちの肥満体で、白人で女子だけどラッパーになるのが夢で、周囲の黒人男子たちにはバカにされてヘコむけど、世の中を恨まない。車椅子生活のお祖母ちゃんが大好きで面倒をよく見るし、酒浸りの母親も軽蔑しない。デモ音源の録音費用のために熱心に働く。彼女は人間を愛するし、夢の実現のために動く。だから彼女の行動を見ていると、彼女が発するいい波動が伝わって来る。
映像と音楽も、彼女の魅力に貢献。彼女が妄想を抱くと、彼女の美意識に合わせて映像のタッチがガラッと変わり、ラップのプロモ映像系の派手な極彩色になるのも楽しい。そして何より、彼女のラップがカッコイイ。
ユニークで新鮮な、夢を追う若者のストーリー
音楽の道に進みたいけれど障害だらけ、という話はこれまでに多数あった。最近ならばピクサーアニメの『リメンバー・ミー』もそのひとつ。だが、今作を違ったものにしているのは、キャラクターの組み合わせ。ラップといえば普通は黒人男性のものだが、ここに出てくるのは太った白人女性パティと薬剤師のインド系男性。しかし、意外にも説得力は十分。周囲の男たちから"ダンボ"とからかわれてきたパティの中には、十分な怒りがあるのだ。クライマックスの彼女のパフォーマンスは、アンコールを叫びたくなるほど。祖母、母、パティの3世代の女たちの関係も小さな感動を呼ぶ。