ワンダー 君は太陽 (2017):映画短評
ワンダー 君は太陽 (2017)ライター5人の平均評価: 4.4
悪意をも溶かしてしまう、世界への肯定感に満ちている
これまでなら感傷に陥りウェットになりすぎたであろう物語を、洗練された語り口で別次元へ導く。人とは異なる苦悩をオギー少年は乗り越えられるか。安全圏としての家庭から、他者にまみれる学校という環境へ出て遭遇する奇異な視線。章ごとに人称が変わる小説よろしく、複数の人物の視点で語ることで閉塞から逃れ、多くの気づきが得られる。いじめっ子に罰を与えた校長に対し、その子を庇う親が反発する際、これぞ社会の現実とばかりに吐き捨てる台詞が、ステレオタイプの価値観を象徴する。悪意をも溶かすオギーの世界への肯定感が、周囲を変えていく。敵対せず、絶望せず、分け隔てなく人を信じれば、周囲からの怖れや先入観は消えていく。
主人公の周囲の人々の物語にもなっている
さまざまな人々の複数の視点から描かれるので、よくある難病映画とは違う物語になっている。主人公の目に映る世界だけでなく、主人公の母、父、姉、姉の友人、主人公のクラスメートたちの世界も描かれて、主人公だけではなく、誰もがそれぞれの問題を抱えていることが明らかになっていく。そして、そのことに主人公が気づいていく。だから、難病に苦しむ子供の話ではなく、誰もが共感する普遍的な物語になっているのだ。
そういう物語なので、画面の色彩は常に明るい。子供たちはいじめっ子も含め、全員が大きな頭をまだ細い首で支えながら、生き生きと動き回る。主人公の1人称の語りは、ツラい場面でもユーモアを失わない。
優しく、正直な目線から語られる良質な感動作
いかにもお涙ちょうだい、あるいは説教くさい映画になりそうな設定だが、温かいハートと、正直な視点のもとに語られるこの作品は、その安っぽいパターンにおさまっていない。人と異なる顔に生まれた少年とその両親の苦難に終始するのではなく、高校生の姉や少年のクラスメートの内面に触れることも、話に層を与えている。「見た目だけで判断するな」ということを教える、ぜひ若い人たちに見てほしい作品だが、この10歳の少年はあくまでメタファー。大人たちはきっと、ここからさらに多くのことを感じとるはずだ。非常に良質な感動作。
だから、ひとりじゃない
ヘタすると、「愛は地球を救う」的な感動ポルノと化してしまう案件ながら、芸達者なキャストによる好演に、『恋は雨上がりのように』同様、ある種のファンタジーをリアルに魅せるスティーヴン・チョボスキー監督の手腕が、見事なまでにうっちゃりを決める! しかも、トリーチャー・コリンズ症候群の主人公だけでなく、彼の実姉や親友、さらには姉の親友視点からも描く“みんながみんな英雄”な構成に、マニア心もガッツリつかむ『スター・ウォーズ』ねたといった、変化球もバシバシ決めてくるから、脱帽としかいえない。決して感動の押し売りではない『マイ・フレンド・メモリー』あたりを“心の一本”に挙げる人は、たまらない快作といえる。
おそらく今年、いちばん泣ける映画かも
ジム・キャリー主演作とは別の『マスク』でも描かれた、頭蓋顔面異常と向き合う少年のドラマで、難病モノの定型の不安もよぎったが、予想を軽々と超え、清々しいほど誠実な逸品だった。主人公を中心に置きつつ、周囲の何人かの主観に語り口を変化させ、それぞれの複雑で繊細な感情をすくい取ったことが成功の要因か。
学校に通い始めた主人公を心配する母親が、校門での何度目かの出迎えで、息子の「変化」を知る。その瞬間のジュリア・ロバーツの、多くの感情が込められた表情が象徴するように、人としての喜びや悲しみ、勇気がバランスよく描かれ、上映時間の3/4くらいは、胸が熱くなり、涙が流れる可能性がある。心からオススメしたい。