ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ (2018):映画短評
ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ (2018)ライター3人の平均評価: 3.3
殺伐感を増した麻薬戦争・セカンドステージ
監督の交代がどう出るかと思われたが、『暗黒街』のソッリマ監督らしい硬質のドキュメント・タッチが活きた。
前作では麻薬カルテルと戦うためのCIAの超法規的手段を、ひとりの女性の視点から観察したことで社会派色が出たが、今回は”観察者”はいない。そのぶんB・デル・トロふんする暗殺者の苦境や、誘拐された麻薬王の娘の不確かな足元が非情な世界を物語るもメッセージ性は薄く、むしろ殺伐とした硬派アクションにシフトしている。
デル・トロの不死身っぷりは完全にキャラが立った感あり。こうなるとJ・ブローリンとの対決…なんて展開も見てみたくなる。より修羅場と化すであろう、さらなる続編を期待してしまった。
いろいろとモノ足りない続編に
もはや巨匠となったドゥニ・ヴィルヌーヴからバトンを渡されたのが、『暗黒街』のステファノ・ソリッマ監督だけに「適任」と思ったが、いろいろとモノ足りない。前作ではFBI捜査官のヒロインに感情移入することで、観客も地獄のような世界を疑似体験できたが、本作でその役割を果たすのが、イザベラ・モナー演じる麻薬王の娘とは言い難い。その後のロードムービーな展開も緊張感に欠けるなど、完全にベニチオ・デル・トロ演じる孤高の暗殺者・アレハンドロのキャラに頼ってる感が見え見えだ。タイラー・シェリダンにしては、脚本の甘さも見え隠れするが、まだ本人が撮った方が良かった気もする。
国境に壁を作りたいトランプ支持者が喜びそうで心配
麻薬戦争の恐怖と復讐に重きをおくラテン気質が伝わった前作に続くのは、テロリストの入国も許すアメリカとメキシコ国境の危うさ。と思いきや、CIAの特殊作戦はそれよりもはるかに恐ろしい。人権は無視し、国際問題に発展しそうなことを次々に敢行。アメリカ国民さえ無事ならいいの、という疑問が浮かぶのは私が日本人だから? ジョシュ・ブローリン演じるCIA捜査官の判断Nにも疑問符がつきまくる。国境危険にさらされているということかもしれないが、ナショナリズムの台頭との表裏一体感は否めない。メキシコとの国境に壁を築くと主張するトランプ大統領支持者が喜びそうな映画であったよ。