芳華-Youth- (2017):映画短評
芳華-Youth- (2017)ライター4人の平均評価: 4.3
「中国人民解放軍八一電影製作所」作とは信じられぬ。
中国映画界の大ヒットメイカーでありながら、多彩かつ果敢な内容に挑み続ける馮小剛。監督および原作者が’70年代に所属していた軍の歌劇団「文工団」が主な舞台だが、文化大革命期から中越戦争を経ての20年間に青春を過ごしたおおよそ5人の運命は、“芳華”というにはあまりに痛々しすぎる。6分間に渡る大移動ワンショットで容赦なき戦場描写を展開するシーンもあるが、それとて爽快感は全くなく、ひたすら個人と体制(システム)との闘争の物語に集約される。意外にオープンな恋愛関係やノスタルジックなムードはあるものの、その本質は皮相かつ冷徹で、やはり今の中国はダブル・スタンダードなのか馮小剛が特別な位置にありすぎるのか。
中国近代史の激動に翻弄される青春群像
人民解放軍の芸能部門「文芸工作団」に所属する孤独な少女シャオピンと好青年リウ・フォンを中心に、中国が文化大革命から改革開放路線へと舵を切る激動の時代に運命を翻弄される若者たちを描く。彼らの困難や悲劇を「時代」や「世相」のせいに止め、体制批判には繋げない筋書きに批判もあろうが、しかし当局の検閲を考えれば仕方あるまい。ただ、眩しいほどに美しい文革時代の描写は、同時代に青春を過ごしたシャオガン監督の「記憶の中」にある世界と捉えるべきだし、なにより体制の歪みを集約したようなシャオピンとリウ・フォンの境遇、そんな彼らがなぜ時代の負を一身に背負わねばならなかったのか。そこに本作の核心があるように思う。
思い出は美しすぎるのかもしれない
中国国内で文化大革命がどのように定義されているのかは知らないが、本作を見る限りは肯定感もあるように感じた。監督と脚本家(原作者)が軍のエンタメ部門を担った文工団出身で、甘酸っぱい思い出や懐かしさがあるせいだろう。登場する文工団兵士も輝いていて、文化破壊が進行中とは思えない、ほのぼのとした青春を送っている。ただし、家族の身分が反映された文工団内ヒエラルキーや制裁的な異動といった部分で文革の暗部を表現したのは『戦場のレクイエム』で一兵卒の悲惨さを描いた監督の真骨頂。正しく生きようとして時代の波に置き去りにされる主人公たちを見つめる監督の温かな眼差しが心に残った。
美しくも、残酷すぎる青春賛歌
描かれている時代は違えど、導入は『So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』にも似た若者の青春物語だけに、フォン・シャオガン監督作としてはどこかモノ足りない。だが、あの『シュウシュウの季節』と同じ原作者なので、“集団”を重視する軍の歌劇団から想像もつかない劣悪なイジメから、作り手の歯止めが利かなくなるほどリアルで残酷な中越戦争へと、今度も可憐なヒロインを災難が襲い掛かる。そして、希望はあるものの、衝撃的なラストに唖然。全体的な流れは決して良くないものの、各エピソードのインパクトに加え、中国政治に対する批判や“紅”を強調した画作りなどもあり、大河ドラマとしての見応えは十分。