やっぱり契約破棄していいですか!? (2018):映画短評
やっぱり契約破棄していいですか!? (2018)ライター3人の平均評価: 3.7
うかつに殺し屋を雇っちゃいけません
死にたいけど自殺する勇気はない。人生に絶望した作家志望の若者が、プロの殺し屋を雇って死ぬことを決意。しかし、その直後に小説出版の話が持ち上がり、担当編集者の女性と恋に落ちる。やっぱ人生捨てたもんじゃないかも…と思い直し、殺し屋との契約をキャンセルしようとする若者だが、ところがどっこい、今回の契約にキャリアの存続がかかっている落ち目の殺し屋は、なんとしてでも仕事を遂行せねばならなかった!「人間には生きる希望と目的が必要だ」というシンプルかつ普遍的なテーマを、英国流のシニカルなブラックユーモアでまとめあげた小品佳作。とりあえず、うかつに殺し屋を雇っちゃいけません。
殺人契約コメディの中に英国風味がたっぷり
自殺願望の青年と契約暗殺者という緊迫した設定なのに、ユル~いブラック・コメディに仕上げるところが、英国の味。暗殺者は英国暗殺者組合の組合員だし。とくに引退寸前の暗殺者と、その妻のキャラが秀逸。英国のベテラン、トム・ウィルキンソン演じる暗殺者の静かな仕事人ぶり、仕事を愛して誇りを持っているから引退したくないという気持ちも、「ターナー、光に愛を求めて」のマリオン・ベイリーが演じるその妻が、そんな夫をヤレヤレと思いながらも認めつつ、自分も好きなことをしてるのも、とっても英国流。英国の郊外ののどかな風景、暗殺者夫婦が暮らす普通の家の台所の居心地の良さ。そんな英国らしさがたっぷり楽しめる。
殺されたい側も、殺したい側も、愛されキャラ
自殺したくて殺し屋を雇うが、恋をして”生きたい”と思い直したときは手遅れ……というプロットは『コントラクト・キラー』風。そこに英国的な笑いを加味したのが本作。
取り返しのつかない事態に慌てる主人公のジタバタはもちろん、殺し屋にも組合やノルマがあり、成績アップに皆奮闘しているという設定が面白い。殺人が”商品”のように扱われる点に、トボケたブラックユーモアがにじむ。
主人公の恋模様は若々しくもかわいらしく、魅力的に映るが、寄る年波に逆らって奮闘しつつ長年連れ添った妻を思いやる老暗殺者の愛情の温かさも印象的。名優ウィルキンソンが醸し出すヒューマニズムにホッコリさせられた。