JKエレジー (2018):映画短評
JKエレジー (2018)ライター3人の平均評価: 4
缶は踏んでも心は錦!
クラッシュビデオ(モノが女性に破壊されるのを見て性的欲求を満たすマニア向けのシロモノ)に出演する地方都市の女子校生、という面妖な設定だが、にも関わらずどこまでも心は健康的で逞しいのが素晴らしい。這い上がろうとしても周りの大人はどいつもこいつもクズで(川瀬陽太&前原滉の父&兄が、底辺のユーモア抜群で絶妙)、何度も絶望的な状況になりながらもどんどん根性坐っていく希代彩がたまらなくカッコいい。彼女なくして成立しない映画といってもいいから、このキャスティングが全てである。タイトルからの連想だけど、溝口健二の『浪華悲歌(エレジー)』(’36)をも想起させる女性映画の傑作でもあるのだ。
パンクで才女なヒロインに拍手!
群馬県桐生市を舞台にした、近年のインディーズ映画では定番と化した“郊外残酷物語”。それだけに、ステレオタイプな描写が多いなか、もはや定番・川瀬陽太と『あゝ、荒野』の自殺サークル会長こと前原滉が演じるヒロインの父と兄のクズっぷりが飽きれるぐらいスゴい。そのためか、『聖なるもの』での渋谷のJKが別人にしか見えない希代彩演じる桐生のJKの鬱屈した想いがストレートに伝わり、地元の半グレ(“鳳仙”出身の阿部亮平!)相手にツルハシをブン回す雄姿に思わず拍手を送りたくなる。芋生悠の使い方がもったいない気もするが、本作が劇場映画デビューの監督には女性主人公のハードボイルドをガチで撮ってほしいものだ。
「優秀だがカネがない」問題を衒いなく描く真っ当青春映画
ちゃぶ台返しではないのだが、それに近いシーンがあって、食卓に怒りをぶちまけるのは高三の娘である。働かない父と兄を抱えた家族の風景。大学の奨学金の返済問題がよくニュースでも伝えられる現在だが、これはそのスタートラインにも立てない郊外在住女子の悲歌。
監督の松上元太は「一見普通」ながら、経済環境で未来への希望を閉ざされた10代の葛藤をすっきりと描き出す。「見えない貧困」に判り易い可視性を盛らず、少女に男性監督の自意識を仮託させる方向にも寄らず。白いスニーカーで踏み潰しても、白い芋虫はしぶとく生きている。最初は平成~令和の『バージンブルース』かと思ったが、むしろ『赤い文化住宅の初子』等の更新かも。