荒野の誓い (2017):映画短評
荒野の誓い (2017)![荒野の誓い](https://img.cinematoday.jp/a/T0024211/_size_640x/_v_1601518417/main.jpg)
ライター3人の平均評価: 4.3
乗り越えられない差はない、希望を感じさせる西部劇
衰退したと思われつつも名作が浮上する西部劇はやはり、見逃せない。本作はアクション場面も多いが、監督が重点を置くのはかつて敵対関係にあった男たちのエモーション。戦争という名の殺戮を犯した男たちが時代や状況の変化を実感しながら、心のわだかまりを解きほぐす過程が静かに描き出される。大統領が人種差別する国だが、乗り越えられない差はないと感じさせる展開で見るものに希望を与えてくれる。演技巧者C・ベール&W・ステューディや開拓時代の荒波にもまれる主婦役のR・パイクはもちろん、脇役にいたるまで熱演を披露する。また、今なお残る広大な自然を捉えた映像も素晴らしく、風景に圧倒的されてしまった。
西部劇を通して現代を見つめた人間ドラマの秀作
端正な西部劇。過去を描いたドラマではあるが、異人種へのヘイトという現在進行の問題をしっかり見据えている点がいい。
ヘイトにもいろいろあり、C・ベイルふんする主人公の葛藤まじりの嫌悪や、B・フォスターが好演する囚人の露骨な憎悪を俯瞰させる。西部が戦争・開拓から発展へと転換する時期の価値観の変化も視野に入れられ、そこに立脚した人間ドラマには重みが宿る。
『クレイジー・ハート』以来イイ仕事が続いているS・クーパー監督だが、過去、そして荒野に目を向けてもブレない人間描写の的確さ。シネマスコープの雄大さを活かした映像のセンスにも唸らされる。ギレルモ・デル・トロと組んだホラー風味の新作も楽しみ。
乾いた大地が問いかけてくる
"荒野"の力が画面から迫ってくる。主人公たちの旅が始まってからずっと、空が大きく、大気は熱く乾き、背の低い草がまばらに生えるだけの荒野がどこまでも続いていく。人間の生存自体が過酷なその土地を移動するためには、体力を温存して遅い速度で進むしかない。しかし、そこで生きる人間たちの信条は多様で、自分の信条を曲げずにいれば殺し合いをするしかない。すると荒野が、その戦いに意味はあるのかと問いかけてくる。
撮影は、この監督と「ファーナス/訣別の朝」でも組んだマサノブ・タカヤナギ。米ニューメキシコ州、アリゾナ州等で撮影された荒野の光景は、この物語の1892年の空と土によく似ているのではないだろうか。