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HOKUSAI (2020):映画短評

HOKUSAI (2020)

2021年5月28日公開 129分

HOKUSAI
(C) 2020 HOKUSAI MOVIE

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

芸術表現の真髄とは自由と反骨にあり

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 寛政の改革や天保の改革によって、幕府による学問や芸術への締め付けが厳しくなった江戸時代中~後期の世相を背景に、権力からの抑圧に抗うがごとく一心不乱に筆を振るい続けた浮世絵師・葛飾北斎の生涯を描く。才能に恵まれながらも伸び悩んだ北斎が、身に付いた流派の既成概念を打ち破ることで初めて実力を開花させ、幕府の綱紀粛正も意に介さず心の赴くまま絵筆を握る姿は、表現の自由とは何たるかの象徴であり、きな臭ささの深まる現代日本社会への警鐘でもある。さらに言えば、時代考証や時代劇のスタイルにとらわれない映像表現を志向した本作自体が、北斎の反骨精神そのものを体現していると言えるかもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

オリジナル・ストーリーで語られる謎多き画狂人

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

美人画の大家・歌麿や若き天才・写楽に比べ、自分らしさを見い出せず、もがき苦しむ若き日の北斎。幕府による戯作家に対する締め付けが厳しくなる中、権力に抗う晩年の北斎。柳楽優弥と田中泯、双方の魅力も出ているものの、天才絵師の生涯というよりは、「冨嶽三十六景」など、名画誕生の秘密に迫った一作であり、後半にかけてのトーンダウンは否めない。ときに怪作も生む橋本一監督作だけに、それなりにハードルも上がったが、新藤兼人監督の『北斎漫画』に比べると、エロも狂気もモノ足りない仕上がり(出血はアリ)。ただ、北斎と親交を深める戯作家・柳亭種彦を演じる永山瑛太が、ここでもいい味出してます。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

北斎の画で、彼の生涯を描き出す

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 現存する北斎の作品に描かれた「ビジュアル」自体を、彼の生涯を描くドラマの中に「情景」として取り込む。そんな大胆な試みにより、1本の映画が作られている。北斎の生き様を描くドラマの中で、北斎の作品と同じビジュアルが、彼があるとき出会う光景、または見る物体、そのとき心に抱いた形として、画面に登場する。それが事実と合致しているかどうかは重要ではなく、その情景が画面に出現したときのインパクトがすべて。
 北斎の作品が、具象画から始まって、抽象的なグラフィックな表現に変化していくのに沿って、映画の演出も変わっていく。その変化を象徴するのが"波"。何度も登場し、そのたびに形を変えて、見る者の目を奪う。

この短評にはネタバレを含んでいます
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