積むさおり (2019):映画短評
積むさおり (2019)ライター2人の平均評価: 3.5
よくある夫婦のすれ違いをホラー風味に味付けした短編ミステリー
主人公は平凡な中年の共働き夫婦。ある時、散歩の途中で不思議な穴を見つけた妻は、それを境に今まで気にならなかった夫のふとした仕草や行動に苛立ち始め、さらに原因不明の耳鳴りに悩まされるようになる。いやあ、これは思わず身につまされる夫婦も多いんじゃないだろうか。炊事洗濯や犬の世話など家のことは全て妻に放り投げで、自分は趣味の筋トレや仕事に没頭。それでいて、後片付けする妻のことも考えず家を散らかし、束の間の夫婦団欒で話すのは自分のことばかり。典型的な日本の関白亭主といった感じなのだが、それだけに募る妻の不満と嫌悪もリアルだ。そんな中年夫婦アルアルをシュールな短編ミステリーとして描いたところが秀逸。
夫婦だけでなく、人間関係全般に通じる話でした
食事中に立てる音やちょっとした仕草が気になり始め、それが相手の欠点に思えてくることってありがち。そんな誰もが経験する日常の一コマを捉え、複雑かつ微妙な人間心理を洞察した梅沢監督の視点が鋭い。女性の教官必至なヒロインを好演するのが妻の黒沢あすかなので、ご当人たちの体験も生きているのかもと思わせる。ヒロインを難聴にするきっかけが犬の散歩中に見つけた穴というくだりは、不条理文学的であり、日常が徐々に崩れていく恐ろしさをシュールな映像で見せてくれる。見終わって思ったのは、見て見ぬ振りをしながら日々をやり過ごす方が楽なのかもということ。夫婦だけでなく、人間関係全般に通じる話でした。