三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実:映画短評
三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実ライター4人の平均評価: 4
直接対話がなかなかできない現代人は圧倒されるはず
三島由紀夫と東大全共闘の討論会映像を軸に作家の思想と行動、彼の人となりが再構築されていく。討論会MCを務めた木村修氏や今なお舌鋒鋭い芥正彦が語る三島像、内田樹や平野啓一郎らの洞察、そして三島を敬愛する楯の会メンバーの証言をバランスよくまとめた監督の手腕と編集がお見事。皇国思想を持つ作家が敵だらけの東大に乗り込み、激昂することなく学生の主張を聞き、考えを理路整然と口にする討論会の熱に圧倒された。ネットに悪口を書き込んで溜飲が下がるという人を否定する気は無いが、直接対話で思想をぶつけ合う姿に目からウロコが落ちる思い。憲法改正を訴える安倍首相とは思想も手法もまったく違うな〜と思った次第。
ユーモアと熱気と
安田講堂の攻防戦に敗れた東大全共闘が起死回生の一手として企画したのが当時の右翼論壇のシンボル・三島由紀夫を論破すること。
しかし、翌年に割腹自殺をすることになる三島由紀夫はある種の知の到達点に達していて、相手の熱量をユーモアに転換していきます。
後に和気あいあいの対決と評されるように、時に言葉だけが先行し、、時に空転するこの討論会は何とも不思議なユーモアに包まれることになります。
予備知識も必要であるし、劇中の意見についても考えさせられる部分ばかりですが、作品の硬そうなイメージに引っ張られず、リラックスして見て欲しい一本です。
1969.5.13と現在の「連続」と「分断」を考える
貴重なテクストとして読まれてきた討論会が“劇場版”で世に問い直される。フィルム原盤の初デジタルリマスターはYouTube「TBS NEWS」でも一部公開されていたが、この映像に記録された“スーパースター”三島由紀夫(44歳)と前衛演劇の旗手でもあった若き芥正彦(23歳)の言葉の応酬は、伝説のボクシングの名試合を観ているよう。
平野啓一郎が言う様に「生き残ってしまった者の苦悩」が三島の中心的主題とすれば、彼にとっての戦争が全共闘の「69年」に相当し、50年目の今があるとの視座が設定可能だろう。本バトルの2年後に生まれた豊島圭介監督は900番教室の“生々しい亡霊”と真摯な格闘を試みたように思う。
思わぬ瞬間に現れるカリスマの素顔に、不覚にも激しく感動する
知られざる真実に驚きと感動を味わうのがドキュメンタリーなら、今作はその目的を快く達成する見本。社会を変えようとする50年前の若者たちの熱い意志と、文学界のスーパースターの素顔。その両サイドが時にじわじわと、時に爆発するように立ち現れる。特にカリスマ性を放つ三島の人間くささ、敵対するはずの学生との美しき共振は、不覚であり、異様に劇的だ。難解なやりとりもあるが、当時を知る人々や文化人の証言が的確に、軽やかな解説で挿入され、理解不能のままスルーしても問題なし。時代のムードを体感するのはもちろん、観る人によっては今後の人生を変える側面が備わってるかも。ナレーターの声質と語り口がやや違和感なのは狙いか?