今宵、212号室で (2019):映画短評
今宵、212号室で (2019)ライター3人の平均評価: 3
レトロでポップな『クリスマス・キャロル』風恋愛コメディ
フランス映画らしいエスプリを効かせた『クリスマス・キャロル』風の恋愛コメディ。主人公は、もはや兄妹のような関係の結婚20年の夫婦。大学教授である妻は刺激を求めて年下の若い愛人たちと適当に遊ぶが、ある晩夫に浮気がバレてしまい、自宅向かいのホテルで一夜を過ごす。すると、彼女の前に若き日の夫やその元恋人、さらには過去の愛人たちなどが次々と現れ、選ばれなかった恋愛関係の「もしも…?」が繰り広げられる。問われるのは恋愛や結婚、そして老いの真理と本質。映像スタイルに比重を置き過ぎた感は否めないものの、シャルル・アズナヴールのシャンソンとジャック・ドゥミ風の演出で紡がれるレトロでポップな世界観は魅力的だ。
現代女性のための「クリスマスキャロル」
既婚者として大失格の中年女性が、夫と暮らす家を出て行った夜、過去の亡霊に直面することに。その「クリスマスキャロル」的な設定は、おもしろい。そんな中で、将来の自分はどんな人生を送っているのだろうかという普遍的な回想や、過去に自分が行った選択の結果、今の自分があるということなどにも触れられていく。全編を通して流れる歌の数々が大人の恋愛映画の雰囲気を盛り上げるものの、最終的に得られるものが、やや物足りない。結婚20年を経た夫婦が、今、どんな状態にあったのかというところがもっと説明されていたら、なぜ夫があんなに理解があるのかが、もう少し理解できたかのかも。
笑えてちょっとビターな大人のファンタジー
大人向けラブコメではありつつ、かなり変化球。結婚して20年になるのヒロインが、夫に火遊びがバレて家を出て、一晩ホテルに泊まることになる。すると"20年前の夫"が出現、2人であれこれ語り合うことに。さらに、ヒロインの歴代愛人たちや、夫の若い頃の恋人、ヒロインの母、熟年男性の姿をした"ヒロインの心の声"まで登場して大騒ぎ。ヒロインは彼らに接しつつ、自分がどうして今のようになったのか、これからどうしたいのかに直面することなる。とはいえ、大人なので、節度もあれば耐久力も駆使される。
ちなみにこの話、ひと昔前だったら男女が逆転した形で描かれていたのではないか。そんなことを思いながら見るのも楽しい。