空白 (2021):映画短評
空白 (2021)ライター4人の平均評価: 4.3
この人間たちの姿を、ぜんぶ花音ちゃんが見ている
またも格別の傑作。𠮷田恵輔自身は「笑い」「面白」を封印したと語るが、彼の人間/世界を見る目そのものに「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」(チャップリン)的な批評性が装備されているのだ。食欲は落ちない直人君(松坂桃李)に、うっとうしいほど前向きな草加部さん(寺島しのぶ)。どうしても笑ってしまう。地獄のはずなのに。
古田新太の迫力はキム・ギドクの『サマリア』を連想したが、町の中に脇の脇まで慈愛の視線が注がれた群像劇が広がる。「人生は動く影、所詮は三文役者。色んな悲喜劇に出演し、出番が終われば消えるだけ」(シェイクスピア『マクベス』)の上に輝く肯定と救済!
古田新太は期待どおり、が、じつは松坂桃李がスゴい芝居をしてる
シンプルに片付けられぬ人間の複雑かつ屈折した感情を、これでもか、これでもかと炙り出し、共感させつつ、いたたまれない気持ちにさせる。高難度チャレンジに挑んだ力作なのは、誰もが認めるだろう。突発的なシーンの演出も、思わず声を上げたくなるキレ味。
娘を亡くした父親の激情、狂気、そこからの変貌で、古田新太の全集中に恐れ入るばかりだが、そこは観る前から想定していたとおり。糾弾される側の松坂桃李が、じつは果てしない闇を抱えていたとも妄想させる意味で、密かにハイスペックな演技をみせ、じわじわ来る。
マスコミ騒動も重要なポイントだが、「この事件で正直そこまで?」という、この手の映画の煽り感はやや気になる。
『スリー・ビルボード』にも匹敵する重厚感
愛娘の事故死からモンスターペアレントと化し、事故のきっかけを作った松坂桃李演じるスーパー店長を追い詰める古田新太がとにかくスゴい……だけじゃない。加害者や同僚、マスコミなど、彼らを取り巻く人々の想いが交錯する群像劇としての重厚感に圧倒される。そんなヘヴィな展開が続く中、吉田恵輔監督は自身の作品の持ち味でもあったコミカルな演出を封印。これに関しては賛否あるだろうが、日本でも『スリー・ビルボード』にも匹敵する社会派ヒューマン・ドラマを撮れることを実証した。ラストに向け、それぞれのキャラが自らの答えを出していくなか、観客が最後の“空白”を埋めるという狙いも見事である。
信じたいことと本当のこと
人は信じたいものを信じるということを暴走する父性を持って描く異色の人間ドラマ。
まぁ、とにかく久しぶりに映画主演の古田新太の暴走、圧倒的な存在感を味わう一本と言えるでしょう。
映像ではどちらかというと面白キャラが多い彼ですが、舞台などでは強面も多く演じていて、この映画ではそんな古田新太の一面を見ることが出来ます。
見事なカメレオンぶりを見せる松坂桃李と、善意の人ではあるのでしょうが、有難さと迷惑さを兼ねる寺島しのぶの演技も見事でした。吉田監督はやはりこういうドロッとしたものが巧いですね。