17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン (2018):映画短評
17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン (2018)ライター3人の平均評価: 3
これは過酷な時代を生きる人々へのメッセージ
世界恐慌下のファシズム台頭を経て’38年にナチスに併合されたオーストリア。ユダヤ人として身の危険を感じた精神分析学の父フロイトはロンドンへ亡命するわけだが、これはそうした史実を背景に作られたフィクション。ウィーンの小さなタバコ屋で働く純粋な青年が、店の常連客・フロイト教授と交流を深める。平穏な日常を徐々に侵食していく排外主義。気が付くと共産主義者やユダヤ人が迫害され、勇ましい言葉で愛国心を語る狼藉者どもが幅を利かせ、心ある人々は沈黙を強いられる。社会の激動に呑み込まれていく若者に、フロイト教授は過酷な時代でも自分を見失わないことの大切さを説く。それはコロナ禍の今を生きる我々に問われる課題だ。
昨年亡くなった名優ブルーノ・ガンツの遺作
ナチの恐怖は多数の映画で語られてきたが、今作は実在の人物フロイトと、架空の青年フランツの関係を通じて見る。だが主軸は田舎から街に出てきたばかりの未熟者フランツの成長物語で、フロイトの出番はそう多くない。彼の賢い言葉もいくつか出てはくるものの、基本的に恋のアドバイスをあげるおじいちゃんにとどまっているのがやや物足りない感じ。フランツは自分の夢をノートに書き留めるのだが、それをフロイトと話し合うシーンがないのは、ライトナーがあえてそこを観客に委ねたかったからか。しかし、フロイトを演じるブルーノ・ガンツの存在感はダントツ。彼の気品、カリスマ、内からあふれる優しさが、本当に惜しまれる。
主人公の見る夢を分析したくなる
抑えた色調で描かれる1937年のウィーンの街が美しい。田舎からこの街にやってきた17歳の少年が、ナチスの台頭という時代の波が押し寄せる中で、それまで見えていなかったものに目を見開かれていく。並行して、生まれて初めて恋という感情を知る。そうした体験によって大きく変化していく17歳の深層心理を「彼が見る奇妙な夢」という幻想的な映像で描き出すところが本作の仕掛け。少年は、実際にこの時期のウィーンで暮らしていた夢分析で知られる心理学者フロイト博士と出会い、見た夢を記録することを勧められる。そうして、彼の見る幾つもの夢が画面で繰り広げられ、そのたびに観客はその意味を読み解こうとせずにはいられなくなる。