河童の女 (2020):映画短評
河童の女 (2020)ライター2人の平均評価: 4
しっとり”ピンク”の香り
『カメ止め』同様、新鋭を発掘・育成するプロジェクトの作品。とはいえ監督が遅咲きの新人とあって、濡れ場こそなけれど懐かしきピンク映画の香りが漂う人情劇。牧歌的な場所で、ある理由でその土地に縛られたさえない男が、運命の女性との出会いで解放されていく。ロマンチックじゃありませんか。そこに唐突に入る笑いのセンスが素晴らしく、特に主人公・浩二が必死になるがあまりの無様な行動が、彼のキャラクターと人間そのものの愛らしさを表していて思わず笑っちゃう。中でも一人で刑事2人を押さえ込む秘技・蟹挟みは最高! 河童という飛び道具はあれど(一応、出る)、演出と脚本は実に手堅い佳作である。
人間は不完全だからこそ愛おしい
ワケあって過去に縛られた男と、ワケあって過去から逃れてきた女が出会い、互いの存在に救いを見出す…なんて書くとまるでフィルム・ノワールだが、ここでは日本の原風景が広がる長閑な田舎を舞台に、心に傷を負った男女のささやかな救済の物語を、ちょっぴりシュールなユーモアを織り交ぜつつ、ほのぼのとしたタッチで描く。さらに、主人公たちを取り巻く人間ドラマには、衰退する日本の田舎が抱えた厳しい現実も映し出されるわけだが、しかし決して未来を悲観するわけではない。この面白みと哀しみの絶妙なサジ加減が本作の持ち味。人間は不完全だからこそ愛おしい。そんな辻野正樹監督の暖かな眼差しに、観客もまた救われることだろう。