アングスト/不安 (1983):映画短評
アングスト/不安 (1983)ライター3人の平均評価: 4
噂どおりの殺伐感……異常心理映画の極北か!?
80年代にVHS化された時期に見逃しており念願の鑑賞だったが、噂にたがわぬ殺伐感。ホラーという娯楽の枠から大胆にはみ出している。
殺人鬼の独白とともに進行する物語。語られる言葉はある程度、説得力があるが、映像として映し出される彼の行為と噛み合わず、行きあたりばったりでジタバタしている姿に狂気を感じる。異常心理の表現として今見ても新鮮。
ギャスパー・ノエがこの映画を度々自作に引用していたことが興味を抱いた要因だったが、見てみて納得。ソーセージをむさぼり食う主人公と、艶めかしい女性の交互のクローズアップなど、見る者の胸をかき乱す描写もインパクト大。覚悟して見るべし。
一般人の感覚を超越した殺人鬼の顔は、こういうものなのだろう
1983年の、オーストリア映画。ちょっと他の作品との比較が難しいだろというスタンスで観たところ、冒頭、何を考えているか不明な表情で歩き回る主人公の姿と唐突な行動で、一気にタイトルの「不安」感が上昇する。殺人鬼の映画ということで、ある程度、身を構えて観続けると、全体にサプライスや衝撃の「回数」は少ないものの、重要シーンの容赦のなさや、エグさのインパクトは予想以上かと。
主人公を中心に、顔やその一部のクローズアップが恐怖と不安定さを増幅させる効果はあるし、現在ならドローンで撮影したかと思うほど、カメラアングルの大胆なチャレンジにも感心。狂った問題作というのは大げさにしても、ザワザワな余韻は残る。
キワモノ映画の仮面を被ったアート作品
『ハウス・ジャック・ビルト』どころじゃない。初めて『ありふれた事件』を観たときの衝撃と高揚感を覚える。『Uボート』の“機関室の幽霊”のイメージを覆す、エルヴィン・レダーもガチでヤバいが、そのヤバさを増長させるのが、後に「イマジン」のMVも手掛け、MTV界の巨匠となるZ・リプチンスキによる実験的な撮影と編集。ドローンやGoProがない時代、自身も脚本に絡み、鏡やロープを使って魅せる実験映像の数々には、いろんな意味で唸らされる。そこに電子音楽の第一人者、クラウス・シュルツの不穏なサウンドが加わり、メンタルがエグられること必至。要はキワモノ映画の仮面を被った、確信犯なアート作品である。