マーティン・エデン (2019):映画短評
マーティン・エデン (2019)ライター2人の平均評価: 4
古風な成長小説の雰囲気が味わい深い
「野性の呼び声」などで知られる米作家ジャック・ロンドンが1909年に書いた、作家を目指す労働者階級の青年を描く自伝的小説を、20世紀のイタリア、ナポリに舞台を移し当時の記録映像も交えて描くが、その描き方はあえて古風なビルドゥングスロマン、成長小説の趣。そのせいで、逆に時代を超えた象徴的な物語に見えてくる。
主演のルカ・マルネッリは「オールド・ガード」の元十字軍兵士ニッキー、「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」の悪役ジンガロ役の俳優だが、本作では別の顔。貧しいが情熱に溢れる男が、やがて名声を得ても幸福になれない男に変貌していく過程をじっくり見せる。
ナポリのジャック・ロンドン、あるいは青春の蹉跌
下層に生まれ、上流の娘に恋した青年が、独力で知的な戦闘力を身につけていく……という米国産の物語が、伊現代史の背景に置き換えられつつ、仏語も交ざる不思議な抽象性が肝だろう。中古のタイプライターを手に入れ、スペンサーの適者生存を踏まえながら社会主義を語るマーティンの上昇譚は、ヨーロッパ的なロマンと虚無を魅惑的に纏う。
結果的にスタンダール『赤と黒』に接近したのではないか。かつてジュリアン・ソレルを演じたのはジェラール・フィリップだが、本作のルカ・マリネッリ(ヴェネチア映画祭では『ジョーカー』のホアキンを抑え受賞)は『若者のすべて』や『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンに似た野卑の詩を湛えている。