いとみち (2021):映画短評
いとみち (2021)ライター4人の平均評価: 4
選択肢の限られた田舎で暮らす若い女性の夢と希望、迷いと不安
口下手で人見知りで内気な青森県の女子高生が、勇気を出して憧れのメイド喫茶でアルバイトを始め、やがて周囲の大人たちから人生を逞しく生きる術を学んでいく。世間知らずで未熟な少女の成長譚を、青森県ののどかな景色を背景に、ほのぼのとしたタッチで描いた作品。人生の選択肢が限られた日本の田舎で暮らす若い女性の夢と希望、迷いと不安を丹念に織り込んだ脚本が興味深い。キャストの多くを青森出身者で固め、津軽弁の台詞を散りばめたローカル色も作品に説得力を与える。ただし、訛りがきつ過ぎて何を言ってるのか分からない場面は多々ありだが。津軽三味線の伝説・高橋竹山の愛弟子・西川洋子さんの出演も嬉しい驚きだ。
他者との関わりの大切さがよくわかる青春映画
祖母仕込みの津軽弁のせいでおしゃべりが苦手な女子高生いとがバイトをきっかけに世界を広げていく。自分が何者かわからない思春期特有のもやもやを拗らせている少女の鬱屈を解いていくのは、それぞれに悩みを抱え、壁にぶち当たっている普通の人々だ。貧困や夢の崩壊などを恐れながらも必死に生きるバイト先の先輩や初めてできた友人との交流でヒロインが成長するさまは、好感度大! いとをめぐるシスターフッド的な関係は、横浜監督のこだわりだろう。自分の殻に閉じこもっていては人々への共感などができないわけで、コロナ禍でソーシャル・ディスタンスの時代だけど、他者との関わりって本当に大切と思わせる作品だ。
津軽弁と津軽三味線の組み合わせが強烈
『ウルトラミラクルラブストーリー』のようにブッ飛んではいないが、あまりのストレートさ加減に驚かされつつ、それでも飽きさせない横浜聡子監督なりの青春映画。これまでの作品では、ピンと来なかった駒井蓮がどこか芯のある陰キャなヒロインを好演し、見事に大化け。彼女を始め、愛すべきキャラたちに、ネイティブな津軽弁と津軽三味線の組み合わせが、とにかく強烈だ。そのうえ、北野組である柳島克巳の撮影が捉える津軽の風景やしっかり物語が語られている演出力もあり、決してご当地映画になってないところも、ポイント高し。原作好きにとっては、痛みなどがややモノ足りない感もあるかもしれないが、映画化としてはしっかり成功している。
「撮影所システムの中で最良形に結晶した鬼才作家映画」のごとく
横浜聡子監督の新しい傑作。クストリッツァ映画のジプシー音楽ばりに津軽三味線が鳴り響き、思春期の鬱屈を核にした物語は『りんごのうかの少女』(13年)の延長・発展にも見えつつ、越谷オサムの原作が「普通の映画」のフレームとして絶妙に働いた感がある。
おばあちゃん譲りのディープな津軽弁を話す駒井連の「涼しくてエモい」存在感が素晴らしい。メイドカフェは社会や労働の現実を知る成長の場として機能し、シスターフッドの心意気も息づく。人間椅子の「エデンの少女」、太宰治『雀こ』や永山則夫『なぜか、海』など、ご当地アイテムでもある諸要素は青森の風景と同様に人物描写と有機的に結合する。名手・柳島克己の撮影も堪能。