THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~ (2018):映画短評
THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~ (2018)ライター3人の平均評価: 3.3
希望が消えゆく香港がますます心配になる
中国返還以来、香港の状況は変化し続けていて、その一部を描く作品だ。主人公は香港男性が中国女性との間にもうけた女子高生で、彼女が味わう身分差や経済格差が中国本土と香港の微妙な関係を表しているようだ。小遣い欲しさで密輸組織に加担する主人公のナイーブさに呆れるが、擬似家族を構成する女ボスの「金が全て」な感じこそが国民にサバイバルを必要とさせる中国の実態なのだなと背筋がゾクリ。ヒロインが壊したiPhone6を黄金か何かのように求める人々も恐ろしく、作り手の意図に反して希望は感じなかった。が、心身ともにタフでなければ生き延びられない国家だからこそ、そのうち世界を牛耳るかもと恐ろしくもなる。
サスペンス色入った現代版『メイド・イン・ホンコン』
一見キラキラした青春映画だが、じつは犯罪サスペンスという意外なテイストが魅力的だ。密輸に手を染め、税関を通るスリルを味わうことで、生きている実感を持ち始める女子高生が扱うブツが、クスリではなくスマホというのも妙にリアル。両親や友人との関係性など、現代版『メイド・イン・ホンコン』ともいえるヒリヒリした感触もたまらないが、検閲の厳しい中国映画ゆえに、オチが見えてしまうのも事実。それでもヒロインを目に掛ける密輸団ボスのエレナ・コンや父役のリウ・カイチーといった、香港映画界のバイプレイヤーをスパイスとして使い、エンタメに仕上げた新人監督バイ・シュエの確かな演出力は買いだ。
香港の今を切り取る社会派っぽいけど、ノリはホロ苦系の青春映画
深圳から香港への通学で毎日、イミグレ(出入国審査)を通る高校生の日常や、そのイミグレを通って大量の最新型iPhoneを密輸する裏組織の描写から、何かとニュースで話題の「一国二制度」が肌感覚でビビッドに伝わってくる。とはいえ全編のムードは、みずみずしい青春映画。屋上で少女たちが語り合い、ストリートを歩く様子を手持ちカメラの自由な動きでみせるあたり、どこか岩井俊二の映画を観ているかのよう。友情と愛のドラマは想定内ながらヒリヒリと痛い。
お金を貯めて北海道旅行したい主人公たち。高校生の過剰なまでの日本への憧れや、有名観光地ではない絶景スポットなど、香港映画を観慣れた人にも新鮮なシーンがいくつも。