サンドラの小さな家 (2020):映画短評
サンドラの小さな家 (2020)ライター3人の平均評価: 4
社会的弱者同士が助け合い団結することの大切さ
夫からの度重なる暴力に耐えかねた女性サンドラは、幼い娘たちと共に家を飛び出して支援団体に頼るものの、しかしシングルマザーとしての自立を望む彼女に行政システムはまるで不親切。そこで彼女は周囲の人々の助けを借り、親子3人で暮らせるささやかな我が家を手作りしようと考えるのだが…?『マンマ・ミーア!』を含めて「女性映画」にこだわってきたフィリダ・ロイド監督だが、恐らく今回は最もフェミニズム色が強い作品といえるだろう。さらに、苦境に立たされたサンドラに手を差し伸べる高齢者や障碍者、移民たちとの友情を通して、社会的弱者同士が一致団結して世の中の不平等や理不尽に立ち向かうことの大切さを訴える。
DV夫に悩まされた女性のリアルを正直に見つめる
“彼女自身“という原題のとおり、ひとりの女性が自分自身の足で立ち、人生を歩んでいこうとする物語。暴力をふるう夫からなんとか逃げ出したはいいが、ブルーカラーのシングルマザーを待ち受ける現実はあまりに厳しい。一時的な宿に住みながら仕事をかけもちし、毎日をただ生き延びる中でも、暴力を受けた時の記憶がたびたび蘇る。そして、子供がいる以上、その恐ろしい夫とも関係を切ることができないのだ。そういったシビアな現実を容赦なく描く一方で、彼女を支えてくれる人たちの温かさにもたっぷりと触れていく。リアルから目をそらすことなく、エンパワメントを感じさせてくれるすばらしい作品。
困った人に手を差し伸べる。あざとくなく素直に観せられて感涙
DV夫の仕打ちが大きなトラウマとなりつつ、2人の娘との関係や、幸せだった時代の夫への愛情に葛藤する。そんなヒロインの物語はシビアで生々しくも、ある程度、想定内。しかしこの映画の最大の魅力は、周囲から差し伸べられる「優しさ」だ。タイトルにあるとおり、DIYで家を建てようとするヒロインに、人々が手を貸すエピソードがいちいち心に刺さる。しかもあからさまではなく、さりげない演出で…。劇中でも語られる「皆が集まって助け合うことで、自分も助けられる」というアイルランドの精神に、日本人のわれわれも激しく共感するはず。何度かの優しく涙を誘うシーン、まっすぐに進まない展開も用意し、観終わった後は希望に包まれる。