ロックダウン・ホテル/死霊感染 (2020):映画短評
ロックダウン・ホテル/死霊感染 (2020)ライター2人の平均評価: 3
地味だが視点は面白いカナダ産パンデミック・ホラー
カナダのとある大型ホテルで謎のウィルスが散布され、感染した宿泊客が次々にのたうち苦しみながら狂暴化していく…という話なのだが、しかしこの種の映画にありがちなパニックもアクションもゴアもほぼ皆無。物語はたまたま同じ日の同じ時間にチェックインした、DV夫の暴力に悩まされる子連れの平凡な女性と、DV男から逃げてきた日本人妊婦の苦悩と葛藤を軸に展開する。言うなれば、通常のパンデミック映画でその他大勢に分類されてしまうキャラクターにあえてフォーカスした作品。非常に地味な映画ではあるものの、『ザ・ブルード』など初期クローネンバーグ作品を彷彿とさせる要素も多く、試みとしてはなかなか面白い。
ホテルのワンフロアのある一夜。最小限の舞台で恐怖を描く
前知識なく映画を見て、新型コロナウイルス感染拡大時の世界の様相を、ホテルを舞台に比喩的に描いた作品なのかと思ったら、撮影はパンデミック発生以前の2019年1月とのことで、その奇妙な符合に驚く。
映画は、登場要素を必要最小限に抑えた、究極の低予算ホラーぶりがむしろ見もの。舞台はほぼホテルの内部のみ、時間はある一夜のみ。主要人物も最小限で、夫婦と幼い娘、サブキャラは釈由美子演じる日本人女性とその母くらい。そうしたミニマムな設定で、例えば主人公がホテルの狭い廊下を歩いていくというだけのシーンに、どれだけの恐ろしい光景とドラマを盛り込めるか、というところに知恵を絞る。その作劇術が興味深い。