レリック -遺物- (2020):映画短評
レリック -遺物- (2020)ライター3人の平均評価: 3
老後が現実になってきた世代に勧めたいホラー
歳を重ねるにつれ「もしも認知症になったら?」という恐怖が身近に感じられるようになるが、治療不可の症状をホラーに発展させたN・E・ジェームズ監督の発想力に恐れ入った。認知症である老母エドナが感じる恐怖と振り回される娘や孫の困惑は非常に現実的で、彼らが体験する異常事態と対照的だ。アンバランスさが見るものに不安感を与える。「何が起こっているの?」とスクリーンから目が離せなくなり、ひねりの効いたエンディングまで恐怖の物語にどっぷり浸る。エドナ役のR・ネビンの演技がとてもリアルで、老母の混乱と不安定さが切ない。観賞後の余韻も深く、老後が現実になってきた世代に勧めたい。
新鋭監督の実体験に基づく認知症ホラー
愛する家族を襲う認知症というテーマを、『ファーザー』とは異なる視点から社会派としてではなく、ガチなホラーとして描く。とはいえ、シャマランの『ヴィジット』のような高めのテンションではなく、アリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』のようにジメジメとした湿度が持ち味となり、恐怖を持続させる。日系オーストラリア人監督の実体験が元になっているだけに、『仄暗い水の底から』など、Jホラーからの影響もあり、もの悲しいエンディングも効果的だ。また、娘と孫を登場させることで、世代別による価値観や立ち位置の違いも描くなど、ドラマとしての厚みを感じさせるが、もうちょいホラーとしてのインパクトが欲しかった気もする。
老女がひとりで住む家が迷路と化していく
年老いた母の家を久しぶりに訪れた娘と孫。認知症の母は何者かが家にいるというが、それは彼女の妄想なのか、それとも何かがそこにいるのか。三世代の女性を登場させて"老いる"というものを真正面から描く物語は、リアルさ、ホラー演出、寓話性の微妙な配合ぶりが見もの。老母が一人で暮らす家の、部屋のすみまでは光が行き届かず目を凝らしても細部まで見えない様子は、登場人物たちの記憶のあやふやさによく似ている。片づいた居間の隣に雑多な廃品が溢れる荒廃した部屋があるという状態は、そこに住む老女の意識の状態がそのまま反映されたものだろう。そんな家の中はまるで迷路のようで、女たちはその中をさまようことになる。