くじらびと (2021):映画短評
くじらびと (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
それは人間と自然の理想的な共存関係
文字通りクジラと共に暮らすインドネシアの貧しい漁村に密着したドキュメンタリー。1年に10頭もクジラが獲れれば村人全員がなんとか食べていける。日本では既に存在意義を失ったに等しいクジラ漁だが、しかし近代的なインフラもろくに整っていないラマレラ村において、先祖代々のクジラ漁は村の人々の生命線だ。自分たちが食べる分だけしか獲らず決して無駄にしない。それは我々も見習うべき人間と自然の理想的な共存関係と言えよう。しかしその一方で、世界的な水産業の巨大化は止まらず、あと数十年で海の生物がいなくなるとも言われる。彼らのような人々の生活を守るためにも、持続可能な社会の実現は必要なのだろう。
船大工が語る話が、真っ青な海によく似合う
「舟に目を描く。すると、その目が魚を見つけてくれる」といったマジカルな話を老いた船大工がしているときに、映し出されているのはその老人の顔のアップではなく、舟に描かれた目でもなく、ただ真っ青な海が画面いっぱいに広がっている。その海が、こういう場所ならそんなことが起きるかもしれないと感じさせる。そういう描き方がいい。
インドネシアの小さな島で魚を採って暮らす人々を描くのだが、その営みにはそこにあるものがすべて活かされ、つながっている。舟を作るときには、村人が協力してそこに生えている木を切り、縄を編む。そこの海にいる魚を捕獲し、村人みんなで分ける。そうした生活が静かに映し出されていくのが心地よい。