ビースト (2019):映画短評
ビースト (2019)ライター3人の平均評価: 3.3
オリジナルからの大胆すぎる改変
毎作なかなか気合の入ったサスペンスを魅せてくれるイ・ジョンホ監督が挑んだ、『あるいは裏切りという名の犬』のリメイク。何かと背中で語るオリジナルに比べ、バイオレンス描写で引っ張るうえ、中盤のマンション突入など高まるシーンも多い。しかも、後半にかけ、ブッ壊れていくジョンホ監督作の常連俳優、イ・ソンミンの芝居に圧倒されることだろう。とはいえ、現金輸送車襲撃から猟奇殺人という事の発端となる事件を始め、オリジナルからの大胆すぎる脚色が仇となったか、盛り込みすぎて、散漫になってしまった。そして何より、ライバル関係である2人の刑事が、あまり対照的に描かれていないことは悔やまれる。
理想や綺麗事なき野獣たちの欲望が渦巻く韓流ノワール
目的のためなら手段を選ばない昔気質の乱暴者と、職業的な倫理観を重んじる冷酷なモラリスト。この対照的なライバル同士のベテラン刑事が、猟奇連続殺人事件の捜査で出世を巡って対立し、やがてお互いに道を踏み外して泥沼へ引きずり込まれていく。フランス映画『あるいは裏切りという名の犬』のリメイク。ただし、前半はオリジナルにかなり忠実だが、しかし中盤からの展開はだいぶ異なる。登場人物はどいつもこいつも、欲望や本性を剥き出しにした野獣みたいなクズばかり。それは善悪の境界線の曖昧さと共に、理想や綺麗事なき人間の醜さをも白日のもとに晒す。イ・ソンミンにユ・ジェミョンという渋い名優同士の凄まじい芝居対決も圧巻。
古風な質感の映像で、現代の獣たちを描き出す
シネスコで描かれる、大きな風景の中に登場人物たちの姿は小さい、引きの画がいい。撮影監督は『犯罪都市』のチュ・ソンニム。シネマスコープ誕当時に使われたアナモルフィックレンズで撮影された画面は、古いフィルムノワールの雰囲気を漂わせる。
だが、その古風な質感とは対比的に、登場人物のほぼ全員が、いかにも現代的な映画タイトル通りのケダモノたち。ストーリーには、原作となった2004年のフレンチノワール『あるいは裏切りという名の犬』と共通点があるが、人間というものの描き方はまるで違う。この映画では、刑事も犯罪者も違いはなく、誇りも尊厳も持たない獣たちが、自分が生き延びるために相手の急所を狙いあうのだ。