GAGARINE/ガガーリン (2020):映画短評
GAGARINE/ガガーリン (2020)ライター3人の平均評価: 3.3
郊外の片隅から宇宙を夢見るファンタジック・ラブストーリー
パリ五輪に向けての再開発により2019年に取り壊されたガガーリン団地。『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』とも共振する現場で、アフリカ系少年&ロマの少女の瑞々しいボーイ・ミーツ・ガールが描かれる。バンリュー映画の嚆矢となった『憎しみ』から、移民社会としての仏の現実を描く映画(『ディーパンの闘い』『レ・ミゼラブル』等)が浮上してきたが、これは同じ主題系なのに柔らかな寓話的味わい。
宇宙開発と新しい居住スタイルが輝かしく見えた時代に建てられた当団地は「1960年代の夢」の象徴。それが本当に失われてゆく哀切が、ブルーグレー等の淡い中間色の世界を甘酸っぱく染める。ドニ・ラヴァンもいい味!
心の拠り所を奪われていく弱者の哀しみと郷愁
ド・ゴール政権時代に労働者向けの公営団地として建設され、’70年代以降は大勢の移民が暮らしてきたパリ郊外のガガーリン団地。五輪開催の準備に伴う再開発で’19年に消滅したのだが、これは取り壊しが決まってからも最後まで住み続けた移民の少年の物語だ。ガガーリンのような宇宙飛行士に憧れつつ、家出した母親をひとりで待ち続ける少年。彼にとってここは世界の全てであり、貧しくとも肩を寄せ合う隣人は家族も同然で、なおかつ母親と繋がる唯一の場所だ。フランス社会の貧困や格差、人種問題などを織り交ぜながら、心の拠り所を奪われていく弱者の哀しみと郷愁を、どこか幻想的なタッチで描いていく。切なくも心洗われる作品だ。
少年の今いる場所が、大きな宇宙と結びつく
今や老朽化し取り壊されようとしている巨大な公共団地で暮らす、16歳の少年の周囲には、貧困、差別、家族関係などさまざまな問題が渦巻いているのだが、この団地の名称はガガーリン。1961年の建設時、人類史上初めて有人宇宙飛行に成功した飛行士ガガーリンに因んで付けられた。この語をキーワードに、リアルな社会問題と同じ強さで、少年が抱くここではない場所、”宇宙”への憧憬の思いが映し出されるので、いわゆる社会派映画とは感触が違う。みんなで一緒に見る皆既日食、穴を開けた紙を光にかざして作り出す銀河系。少年が巨大な団地を宇宙船にして、宇宙飛行士になることを決意したとき、彼の前に出現する光景に魅了される。