ロスト・ドーター (2021):映画短評
ロスト・ドーター (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
監督マギー・ギレンホール、その演出センスは熟練の域
一人でバカンスを楽しむ主人公が、出会った家族に自分を重ね、つらい記憶が呼び戻されるドラマは特に目新しくはない。主人公は常軌を逸した行動にも出るが、あくまでも淡々とつづられることで、逆にその闇の深さがしみてくる。このあたり、観る者の心にさざ波を立てる絶妙な匙加減で、M・ギレンホールの初監督作らしからぬセンスが光る。
過去と現在の行き来はともかく、その場のシーンを微妙に時間をシャッフルさせる高等テクは、鼻につくというより、感情を伝えるうえで効果的。
一人バカンスの悦楽から、寂しさと恐怖、正義感、人生の疵(きず)、自己弁護の本能など、一切大げさにならず表現するO・コールマン。これこそ演技の最上見本。
口に出せない母親業の辛さ。そのタブーに迫る
「母親業は最高にやりがいのある仕事」、「子供はかわいい。何より大切な存在」。それは母親たちの本心のはず。だがその裏には、同じように堂々と言うことが許されないしんどさがあるかもしれない。時にはここから逃げたいと思うことすらあるのかも。女性作家による小説を女性監督が映画化した今作は、そのタブーに迫る。初監督作にこのテーマを選んだマギー・ギレンホールには感心。しかし、スタイルが優先されてしまい、不必要に話を引っ張ったために、感情面でのインパクトが弱まった気が。そこを埋めるのがオリヴィア・コールマン。複雑な思いを多く秘めた主人公を表情だけで細やかに演じる彼女はさすがだ。