アンネ・フランクと旅する日記 (2021):映画短評
アンネ・フランクと旅する日記 (2021)ライター4人の平均評価: 3.8
今を生きる我々に「アンネの日記」が訴えかけること
現代のアムステルダムに甦ったアンネ・フランクの「空想の友達」キティー。既にアンネがこの世にいないことを知らない彼女が、懐かしい過去の思い出を振り返りつつ、大好きなアンネとその家族に何が起きたのかを探っていく。「アンネの日記」をそのまま映像化するのではなく、現代的な視点から我々が学ぶべき教訓を紐解いていくアニメーション。アンネを聖人ではなく「長所も短所もある平凡な女の子」として描き、さらにキティーの目を通して現代社会が抱えた難民問題にも触れることで、いかなる理由があっても迫害されていい人間などいない、どんな命でも等しく尊いのだということを見る者に訴えかける。想像力豊かな映像美も大きな見どころ。
今こそ考えたい日記が残された意味
日記初出版から75年に合わせ、アンネ・フランク基金の依頼を受けて制作された。”現在と過去をつなぐ”という要望に、見事に応えた脚本が秀逸だ。主軸は空想の友キティー。彼女は”創造のキャラ”から飛躍して、時空を飛び越えながらアンネのその後を旅し、現代のアムステルダムで難民と共鳴する。彼女の躍動と今日的な問題が、もはや遠い過去となっていたアンネと日記の存在をも鮮やかに甦らせることに成功している。だからこそ、考えずにはいられない。アンネは今の世界をどのように見ているのだろうかーーと。ホロコーストの生存者の息子である監督の想いも込めて制作された本作が、この時期に世に放たれた意義を噛み締めたい。
新たに再構築されたアンネの生涯
日記でアンネが語りかけるイマジナリーフレンドのキティーが、実際に過去と現在を行き来する狂言回しとして登場。そんなファンタジー要素に加え、アンネが恋した少年と同じ名の少年・ペーターとの旅も描かれるなど、新たに再構築されたアンネの生涯は、決して教科書的ではなく、今の世代が没入しやすい仕掛け満載。アンネが夢中だったギリシャ神話とリンクするホロコースト描写やヤー・ヤー・ヤーズのカレンOが手掛ける劇伴など、『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督らしい大胆な演出も見どころだが、こんなご時世だけに“戦争によって犠牲になるのは、いつの時代も子どもたちの未来”といったメッセージが刺さる。
『戦場にワルツを』のアリ・フォルマンが過去と現在をつなぐ
キャラクターデザインを見ると子供専用アニメかと思ってしまうが、監督・脚本は『戦場にワルツを』『コングレス未来学会議』のアリ・フォルマンなので、物語にも映像にも、大人が見ても興味深い仕掛けがある。原作はアンネ・フランクの日記だが、主人公はアンネではなく、彼女が日記を書くときに語りかける相手として創造した架空の少女キティ。キティがもし現代に甦ったら、彼女の目に世界はどのように映るのか。本作はそれを描いて、"アンネが生きた時代"と"現在"を継ぎ目なくつないでいく。書かれた文字がページから宙に浮遊して人間になったり、写実的な光景が図形的に変化していき戯画になるなどアニメならではの映像表現も随所に。