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ある男 (2022):映画短評

ある男 (2022)

2022年11月18日公開 121分

ある男
(C) 2022「ある男」製作委員会

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

くれい響

監督が『砂の器』を目指したのも納得

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

“過去を変えることができない”日本の戸籍制度をテーマにしたミステリーだが、『愚行録』の雑誌記者に続き、今度は弁護士として真実に迫っていく妻夫木聡の出番は中盤から。そういう意味では、後に“Xさん”と称される窪田正孝演じる「ある男」のヒューマンドラマとしても捉えられるが、ジャンルを問わない石川慶監督独特な不穏な空気感と重厚感ある丁寧な演出により、彼と安藤サクラ演じるシングルマザーとの恋物語から目が離せない。基本ハズレなしの石川監督作だが、前作『Arcアーク』ほど鼻につかないのも良く、見応えある演技合戦や余韻を残すラストなど、監督自身が『砂の器』を目指したのも納得である。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

現代日本映画の頂上体験――精鋭メンバーによるぜいたくな愉楽

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『愚行録』の監督:石川慶×脚本:向井康介×主演:妻夫木聡が再び集結し、さらなる高みへ。原作にも言及のあるマグリットの絵画「複製禁止」が主題的なモチーフとなり、自分のラベルを貼り替える禁断の荒ワザ=「戸籍交換」と複雑に絡む。「私」を巡る無間地獄であり、奇妙な多面体として造形された現代日本の縮図。一見完璧な主人公もマイノリティ属性などに苛まれ、ある種の牢獄状態の中にいる。

重層的なミステリー構造からアイデンティティの問題にまで手を伸ばし、必死の希求で「本当のこと」にタッチしようとする試み。窪田正孝、安藤サクラ、眞島秀和など役者陣の充実は言うまでもなく、「柄本明史上のベスト怪演」も観られる!

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

真実という名の鏡

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

石川慶監督×平野啓一郎という並びが思った以上に相乗効果を生んだ一本。石川監督は作品を見ると映像詩人といったイメージを感じるのですが、そういう意味でも平野作品とは相性がいいのかもしれません。
真実を追い求めていく中で自身のアイデンティティを考えてなくては行かなくなるという二重三重の構造が面白かったです。石川監督作品の妻夫木聡は一味違って良いですね。妻夫木聡と安藤サクラと窪田正孝は各パートごとに主役ともいえる立ち位置で、均等な配分の様に見えていましたが、ラストシーンを見るとやはり主人公は妻夫木聡なんだなと。脇役も見事に機能しています。派手さはありませんがじっくり堪能したい一本ですね。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

安定の演技巧者たちによって、心が波立つ時間が何度も

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

何年か生活を共にした相手。思っていた人間とは違った…という設定自体は、映画的サスペンスとしてそれほど驚きはないものの、その秘密がゆっくり、じわじわと立ち現れる前半の構成が見事で、物語にどっぷり没入してしまう。
素性が揺らぐ窪田正孝の不安定な存在感、不運への対処を硬軟自在に演じる安藤サクラ、怖すぎる柄本明…あたりの名演技は期待どおりとして、ミイラ取りがミイラになりそうな状況を妻夫木聡が繊細ギリギリのラインで見せて、熱演とは違うベクトルでキャリアの集大成を実感。
社会問題の盛り込み方、そのさりげなさにも唸る。
ただ終盤は感情をどこに持っていくべきか迷う人もいるかも。そこも作り手の狙いなのだろうが。

この短評にはネタバレを含んでいます
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