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不都合な理想の夫婦 (2019):映画短評

不都合な理想の夫婦 (2019)

2022年4月29日公開 107分

不都合な理想の夫婦
(C) Nest Film Productions Limited / Spectrum Movie Canada Inc. 2019

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

なかざわひでゆき

家父長制と資本主義が夫婦の崩壊を招く

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 規制緩和でロンドン金融市場が活況を呈した’86年。一獲千金を夢見てアメリカから母国イギリスへ戻った主人公は、その強い野心と虚栄心ゆえに足元をすくわれ、愛する妻や子供たちを不幸にしてしまう。男たるもの大志を抱け!金を稼いで妻子に贅沢をさせろ!そんな「有害な男らしさ」に囚われ、妻に断りもなく何でも勝手に決めて自滅していく主人公。一方、女は男の言うことに従えばいいと教わって育った妻は、夫が家庭にもたらす災難から自身と子供たちを守らねばならなくなる。いわば、理想の夫婦の仮面を被った男女の家庭崩壊を通して、家父長制と資本主義の構造的な問題の類似性を考察した作品。ジェンダー規範は男も女も不幸にする。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

ジュード・ロウvsキャリー・クーンの演技合戦も見もの

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 夫と妻の微妙な関係、英国と米国の文化的ギャップ、中年の危機など、さまざまな要素を内包した作品でありつつ、ジュード・ロウとキャリー・クーンの演技合戦がたっぷり堪能できる映画にもなっている。

 それぞれ大規模製作費映画が続く2人、『ファンタスティック・ビースト』シリーズや『キャプテン・マーベル』のロウ、『ゴースト・バスターズ/アフターライフ』や『アベンジャーズ』シリーズのクーンが、この映画の、登場人物が少なくほぼ自宅と職場が舞台という環境の中で、人間の細やかな感情を表現。口が上手い営業職の英国男性と、地に足をつけた馬の調教師の米国女性というキャラ設定も、この2人にお似合い。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

崩壊していく虚構と、家族の悲劇

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

2011年の「マーサ、あるいはマーシー・メイ」で才能を発揮したショーン・ダーキンは、監督2作目となる今作で再び人間の心理に独特の角度から斬り込む。ここで描かれるのは、もとからあったが気づかなかった夫婦間の小さな傷が、どんどん大きくなって崩壊していく様子。家族を崩壊へと引っ張るのは、自分を大きく見せたがる男のエゴと、いかにも「ウォール街」の時代らしい「大きく儲けてやる」という夢の空振り。彼らの住むやたらと大きい家がその空っぽ感を見事に象徴し、ハリウッド的でないエンディングがなおさらリアリティを増す。実力派であるジュード・ロウにとっても、これは最高の演技のひとつと言えるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
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