線は、僕を描く (2022)：映画短評

将来「何にもならない」と後ろ向きな大学生が、ある出会いで一歩踏み出す場所を与えられる。そんな冒頭の数分間が唐突ながら鮮やかで、一気に物語に引き込まれる。
片方の目が隠れるほど前髪を垂らし、悩める心情を引きずる主人公が、希望に進もうとするいくつかの瞬間、前髪が少し掻き上げられ、瞳を輝かすとき、観ているこちらの心も躍動する。
メインキャストが多くのシーンで、自らの手で筆を走らせているのがわかるのも好印象。ややテーマや教訓が盛り込まれ過ぎの感があるものの、どこかで感情移入できるのは、真摯で丁寧な演出が貫かれているからか。
手本に忠実にならず、自分なりの何かを模索すること。そのきっかけに感動する良作。

競技かるたをスポ根モノにした『ちはやふる』の小泉徳宏監督が、次なる題材に選んだのは水墨画の世界。タイトルが「僕が、線を描く」ではないのが肝で、水墨画に魅了された青年・霜介の成長物語を軸に、青春群像劇として描く確かな演出力は、本作でも健在。近年作り込んだキャラが続いていた横浜流星の等身大の魅力が炸裂するなか、彼が1年以上かけて習得した繊細かつ力強い筆さばきに圧倒される。さらには、清原果耶演じる“年下の姉弟子”千瑛とリスペクトし合う関係性も清々しい。競技かるたのようなバトル要素はないものの、今回もダイナミックで、情熱ほとばしる水墨画の印象が大きく変わる一作に仕上がっている。

『ちはやふる』に続いて小泉監督による”和”×”青春”映画の最新作。
主演の横浜流星と清原果耶のフレッシュなコンビが思い悩む若者を好演。
さらに、この二人を優しく静かに見守る江口洋介と三浦友和がまた素晴らしい演技を披露。
106分の上映時間の中で、無駄なものが全くなく、全てのピース必要な分だけが詰まっていて、それらがガチっとはまった感がある素晴らしい映画。
白と黒だけの水墨画なのにここまで色鮮やかで躍動感あふれる世界が拡がるとは、水墨画への印象が大きく変わる一作でした。
青春映画の新マスターピース。