あなたの顔の前に (2021):映画短評
あなたの顔の前に (2021)名作だけが醸す「集大成にして入門編」の薫り
韓国の「大女優」という位置づけのイ・ヘヨン(62年生)×ホン・サンス監督(61年生)の初コラボ。違う生息地域にいた同世代人の邂逅は惚れ惚れする至高の語りを生んだ。『逃げた女』等からの「ホン・サンス・ユニバース」な延長も交えつつ、大ぶりのメロドラマに成り得る要素を一日の出来事へと鮮やかに凝縮する。
『次の朝は他人』と同じ居酒屋「小説」での場面が用意されるが、様相はいつもと同じようで何かが違う。年下の映画監督との対話は『ノルウェイの森』のワタナベとレイコさんのあるくだりを連想したが、老いや死の取り扱いはあくまでサンス流儀。何より新しい映画の世界に触れた演者ヘヨン自身の発見や解放感が伝わってくる。
この短評にはネタバレを含んでいます