夜明けの詩 (2021):映画短評
夜明けの詩 (2021)ライター2人の平均評価: 3
古いフランス映画のような雰囲気がお洒落
肌寒い冬のソウル。イギリスから7年ぶりに帰国した主人公の小説家と、それぞれに心の傷や喪失感を抱えた4名の男女との対話を通して、人間にとって生と死の概念とは、記憶や時間の意味とはどういうものなのかを考察していく。静かで淡々とした語り口の中に、ほのかな切なさや哀しみを湛えた私小説的な作品。お洒落なソウルの街角を捉えた美しくも端正な映像が、まるで古いフランス映画のような雰囲気を漂わせる。どことなく作家の平野啓一郎氏を彷彿とさせるソン・イェジンの、穏やかで知的な佇まいもステキで、地味ながらも味わいのある小品に仕上がっている。
冬のソウルの情景に癒される
ヨン・ウジン演じる英国帰りの小説家と4人の男女による対話。老いや死、喪失や記憶といった彼らの“心の陰(英題)”に触れることによって、小説家は自身の過去と向き合い、次第に気持ちが変化していく。ゆっくり流れていく時間の下、まるで短編小説や詩を読んでいるような感覚に近い。売りのひとつであるイ・ジウン(IU)の出番は、最初の喫茶店パートのみなので要注意だが、じつはこのパートこそが大きな肝。音響効果による仕掛けもあるなど、キム・ジョングァン監督の思いをいちばん強く感じる。そのため、後半に進むにつれ、やや単調に感じたりもするが、冬のソウルの情景にも癒される叙情的な一作に仕上がっている。