ステラ SEOUL MISSION (2022):映画短評
ステラ SEOUL MISSION (2022)ライター3人の平均評価: 3
古き良きエンタメ日本映画のタッチが甦る!
プログラムピクチャー全盛期、1960~70年代の日本映画のスピリットが脈づいているというべきか。そんなエンタメ作品が韓国で作られたのは嬉しい驚き。
東映的な主人公の不良性を松竹風のバタくさい笑いが彩り、東宝流にしっかり泣かせる……というと型にハメ過ぎかもしれないが、古き良き娯楽映画の伝統が脈づいているのは間違いない。ご都合主義を気にせずに突っ走る展開にも好感が持てる。
クォン監督の前作『あの日、兄貴が灯した光』に比べると軽いノリだが、ステラという車の存在がカーペンターの『クリスティーン』を連想させ、ファンタジーの味を醸し出す。豪快アクションを期待すると肩透かしを食らうので注意。
オンボロ自動車での爆走(?)逃亡劇に込められた負け犬の意地
自動車金融会社で強引な取り立てをする男が、ヤクザな社長から売り物の高級車を預かったところ、借金まみれの幼馴染が勝手に転売してしまい、自分が横領を疑われて逃げ回ることになる。その逃走用に使うのがタイトルにもなったヒョンデ自動車の’87年型ステラ。借金で家族に迷惑をかけた父親を恨んで育った主人公は、その亡き父親が遺したオンボロの愛車ステラに幾度となく窮地を救われ、ままならぬ人生を歩んだ父親の苦労に初めて想いを馳せる。いわば「親の心子知らず」がテーマのアクション・コメディであり、同時に真面目な者ばかりが損をする世の中の理不尽に一矢報いる逆転劇。安易な自己責任論に与しない負け犬賛歌とも言えよう。
時速50キロのボロ車爆走!
『ワイスピ』を意識したアクション大作かと思いきや、事件に巻き込まれる主人公の相棒となるヒュンダイの「ステラ」は1987年製のため、時速50キロしか出ないボロ車。ただ、そこには亡き父との思い出が詰まっており、カーステから90年代の懐メロを流し、ハザードランプで会話するなど、まるで意思を持っているような怪現象が連発。つまりは“人情味溢れる『クリスティーン』”もしくは“ロードムービー版『ラブバッグ』”といった趣であり、『エクストリーム・ジョブ』の脚本家らしいベタな笑いや乱闘シーンもあるなか、後半にかけては泣かせにかかってくる。いい意味で裏切ってくれる韓国映画らしい一本。