君だけが知らない (2021):映画短評
君だけが知らない (2021)ライター4人の平均評価: 3
DV被害者の痛みと哀しみに寄り添う韓流サスペンス
転落事故で記憶を失った女性が、優しい夫の献身的なサポートで日常復帰するものの、マンションですれ違う住人たちに降りかかる事故や事件を透視するようになり、やがて夫が何か重大な秘密を隠しているのではないかと疑う。ヒロインの見るビジョンがこれから起きる出来事なのか、それとも過去に起きた出来事なのかが謎を解くカギで、サスペンス映画好きならばだいだいの展開は察しがつくはず。むしろ本作は謎解きの意外性よりも、そこから導き出されるDV被害者の痛みや哀しみが焦点であろう。ハードで猟奇的な作品の多い韓流サスペンスにあって、時として詩情すら感じさせる繊細な演出のタッチは、やはり女性監督ならではなのだろうか。
ベタなサスペンスドラマ
事故で記憶を失った主人公という設定に始まり、すべてが超ベタ。昔懐かしのテレビのサスペンスドラマという感じで、衝撃的な出来事や秘密がてんこ盛り。良い人と思っていた人がそうでなかったり、逆もまたあったり。ネタバレになるので書けないが、「いや、それも今さらやるの?」と思うことも。感動(するかしないかは別として)のラストまでずっとそれで引っ張り、トーンにブレはない。ただ、捻りに捻った筋書きで観客を驚かせることを重視する一方で、奥のあるリアルなキャラクターが構築されておらず、思い入れをしづらい。そんな中でも役者たちが精一杯にやっているのは伝わってくる。
今度のソ・イェジは巻き込まれ型ヒロイン
幻覚からいろんな人の未来が見えるようになるわ、優しすぎる夫の言動がアヤしく感じるわと、記憶喪失後に散々な目に遭う主婦を演じるソ・イェジ。出世作となった「サイコだけど大丈夫」とは真逆ともいえる巻き込まれ型ヒロインを魅せていくなか、中盤から後半にかけて二転、三転と予想を裏切るネタバレ厳禁な展開が続く。伏線回収も含め、ちょっと捻りすぎな気もしないでもないが、本作が長編デビューとなったソ・ユミン監督によるミステリアスな演出は目を見張るものであり、なんだかんだ泣ける愛の物語として着地。「EXO」のD.O.を主演に迎えた『言えない秘密』のリメイクを任されたのも納得な期待の女性監督といえるだろう。
記憶喪失のヒロインの脳裏に浮かぶイメージの真実は
監督・脚本のソ・ユミンは脚本家出身で『ハピネス』『四月の雪』などの脚本を手がけた人物。ストーリー展開が巧みで、記憶喪失のヒロインをめぐる物語は、観客にこうなるのではないかと予測させておいて、それを2回転半くらいヒネって見せる。
そのストーリーの妙を視覚的にも演出。画面に映し出されるヒロインの脳裏に浮かぶイメージは複数あり、どれもかなり断片的で、それが何を意味するのかはさまざまな推測ができるようになっている。そしてその推測を惑わすように、登場人物たちの顔が善人に見えたり悪人に見えたりする。その中で『サイコだけど大丈夫』のソ・イェジが演じるヒロインの笑顔だけが常に愛らしい。