ノベンバー (2017):映画短評
ノベンバー (2017)ライター2人の平均評価: 4
バルト三国の幻想奇譚、民話からジャンクアートまで
マーク・カズンズの映画考察ドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』で、2010年以降の重要作の内にも挙げられていた噂のエストニア映画(17年作品)。同作では『ミッドサマー』と続けて紹介されたが、怪しい共同体を舞台にした審美性と変態性溢れるホラーファンタジー系はひとつの新潮流と言えるほどで、これは早い段階で出ていた傑作となる。
ピクサーアニメ『リメンバー・ミー』でも扱われた「死者の日」(万霊節)がモチーフとなるが、東欧と北欧の接続点的な地理性のせいか、モノクローム映像はタル・ベーラ、ストップモーションアニメはシュヴァンクマイエルを色濃く連想。「使い魔クラット」が秀逸。
北方の森の呪術と機械仕掛けのクリーチャーと
闇が極端に濃い11月のエストニアの森。夜の闇の黒、月光の白。大地と樹木と太古からの呪術。そこにユニークな風味が加わり、この世界には、斧や箒などの家財道具が組み合わされた、機械仕掛けの玩具のような姿の使い魔"クラット"が存在する。このクリーチャーの、あえてCGではなくあやつり人形のように糸で操作された動きは、異質でありながら世界に馴染み、不気味でいて愛らしい。そんな世界を出現させる、静かで硬質なモノクローム映像に浸る至福の時間が味わえる。
物語もこの世界によく似合う。村人たちと男爵、悪魔との取引き、青年の盲目的な恋、乙女が捧げる純粋な愛が綴られていく。