あなたの微笑み (2022):映画短評
あなたの微笑み (2022)ライター2人の平均評価: 4
日本の豊かな映画文化の灯を絶やさないために
国内外の映画祭で受賞歴を誇りながらも創作活動に行き詰まり、田舎で細々とバイト生活を送る映画監督「世界の渡辺」。久々の仕事をクビになった彼は、自作の特集上映企画を持ち込もうと日本全国のミニシアターを行脚する。実際に世界での評価も高い映画監督・渡辺紘文が架空の自分を演じ、コロナ禍の影響や動画配信の普及で苦境に立たされた日本映画を下支えする、日本中のミニシアターや映画ファンへの感謝と愛情を込めた作品。と同時に、どれだけ優れた映画を作って評価されても、なかなか生活の成り立たないインディーズ映画界の悲哀も浮き彫りにする。首里劇場や別府ブルーバード劇場など実在のミニシアターが多数登場するのも楽しい。
愛おしく観続けてしまう心地よさ。そして映画文化の重要な記録
冷静に観れば、嘘も使ってその場しのぎで日本を旅する映画監督の“独りよがり”な物語なのだが、主演の渡辺紘文の大らかな純朴さで、すべてが愛おしく変化する。
ハマリ役すぎる尚玄はともかく、プロの俳優ではない人たちから自然なムードを引き出し、過剰にベタつかせない編集のタイミングなどカーワイ監督のセンスで心地よい時間に誘われる不思議な一作。
終盤はかなり予想を裏切りつつ、映画愛に溢れた静かな幸福感にも満たされた。そこには倉本聰の名作ドラマ「昨日、悲別で」が重なったりも。
そして本作の完成後、火事で全焼してしまった小倉昭和館のシーンは激しく胸が締めつけられる。日本各地のミニシアターの記憶としても重要。