西部戦線異状なし (2022):映画短評
西部戦線異状なし (2022)ライター3人の平均評価: 4.7
戦地で麻痺する人間の感覚。恐るべき臨場体験
今から93年前に作られた最初の映画版がアカデミー賞作品賞に輝き、同じ原作なので傑作になるポテンシャルはあったが、最前線の惨状を徹底して兵士の立場から描くという姿勢が貫かれ、期待を上回る「臨場体験」に。
目の前で次々と死を迎える兵士。その死体がどう再利用されるかという冒頭から、異常な世界に連れて行かれる。思わず声を上げてしまうショッキングなシーンもあるが、観ているこちらも感覚が麻痺していくところが本作の凄まじさ。一方で戦地でいかに食事をとるか、そんな日常も入れ込むことで、人間的感覚が取り戻され、主人公たちに人間としての尊厳を与える。
第一次大戦当時の戦車や武器はメカマニアの心もくすぐる。
戦争とは
1930年のルイス・マイルストン版(第3回アカデミー作品賞)は『プラトーン』や『プライベート・ライアン』の源流となった反戦映画の古典だが、ドイツで製作された本作はむしろレマルクの原作に改めて遡った趣。ハイティーンの志願兵を中心に、彼らがひたすら残虐な殺戮に満ちた地獄の最前線に直面。ヒロイズムが凍てつく恐怖を生っぽく描く。
戦争を題材とする映画は『ダンケルク』『1917 命をかけた伝令』などアトラクション/ゲーム的な体感重視に傾いていたが、それを「本当」に引き戻すかのような人間模様はウクライナ侵攻の時代に強い説得力を持つ。『惑星ソラリス』でも使われたバッハのコラール(ピアノ演奏)も印象的。
戦争の無意味さを痛烈に感じさせる傑作映画
貴重な若い命を次々に無駄遣いする戦争とは、なんと無意味でばかげたものなのか。冒頭から観る者を激しい戦いのど真ん中に連れて行く今作は、その事実をあらためて感じさせる。さっき真横にいた戦友が、一瞬にしてあっさり死ぬ。バトルの後、地面に横たわる大量の死体。その状況は何度見てもやるせない気持ちにさせられる。そんな中、彼らの命を救うパワーを持つ国のお偉いさんは、安全で立派な部屋の中にいて話をしているのだ。そこにもフィルムメーカーのメッセージを感じる。オスカー受賞作をリメイクするというのは基本的に大胆なことながら、本来の言語で新しい視点からパワフルに語る今作は、断然作られる意味のあった傑作といえる。